FINAL FANTASY V | ナノ
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▼ 22 思い出の魔法?

   山頂へと続く道。ドラゴンの住む山。どうやらこの山脈の呼び名は二通りあるようだ。

   だが山頂へ、という事は、その先の下山道はどうなっているのか?ドラゴンが住むという事は、むしろ山頂へ近付いたらまずいのではないだろうか?なにやら嫌な予感がするが、とりあえず今は気にしないでおこう。

   カナーンの町で、サリーナという名の女性と出会った。彼女はふらりと町にやってきたデッシュという名の男性に恋をし、旅立ってしまった彼の帰りを待ちわびているという。

   その男性に、小人になれるミニマムと呼ばれる魔法を売った、との情報もあった。近々訪れるかもしれない小人の森、その魔法がなければ見付ける事も出来ないだろう。

   後々困った事になるのも面倒なので、デッシュとやらが向かったというこの山を登っている。元々登る予定だったので特に回り道というわけでもないが、果たして見付かるのだろうか。

   長く、険しい山道。しかし自然豊かな田舎育ちの三人、鍛冶で鍛えられたレフィアに兵士のイングズ。誰一人として疲労感は見せていない。


「あれ、これって…」


   道中で見つけた、魔法の込められたオーブ。それはサラ姫が自在に操っていたエアロに間違いなかった。

   ユウリは思っていた。自分もサラ姫と同じように、魔物の戦力を削れる攻撃型魔法を会得してみたいと。それがこんな形で手に入るとは、偶然なのか必然なのか。


「ユウリもサラ姫様のように、使いこなせるようになるさ」


   イングズの言葉に、嬉しくなる。まだ出会って日が浅いのに、度重なる戦闘で見るユウリの力を認めてくれているようで。

   アルクゥもそうなのだが、ユウリは魔法教育を受けていたサラ姫やイングズと違い、駆け出しの魔法初心者。なのにも関わらず、この短期間でめきめきと頭角を現し、着実に力を付けている。これは天性と呼べるものなのだろうか。

   それはクリスタルから受けた啓示により、アルクゥは黒魔導師、ユウリは白魔導師の心を選んだ事による、力の解放が関係しているのかもしれない。

   サスーン城で誉れ高い地位である赤魔導師は、兵士の憧れだ。イングズは迷うことなくその心を選び、レフィアは女性特有の身軽さと鍛冶修行で身に付けた手先の器用さを遺憾なく発揮できる、シーフの心を選んだ。

   ルーネスは今までの戦闘スタイルから見ても、前衛で魔物をなぎ倒し、攻撃の中心を担う戦士の心が適任だと、それは本人が一番分かっていた。

   ルーネスは戦士。アルクゥは黒魔導師。レフィアはシーフ。イングズは赤魔導師。ユウリは白魔導師。

   能力的にはなんともバランスの取れた編成になったと思うのだが、ここで問題がひとつ。今のエアロ然り、ショップで購入できるものとは違い、道中で手に入れた魔法のオーブは一つずつしかない。

   魔法はオーブに込められた魔力を解放して放っている性質上、オーブ一つにつき所持していられるのは一人だけ。

   黒、白それぞれを扱う者が一人ずつであれば起こらない問題。そう、どちらがオーブを所持するのか、である。

   今回のエアロは白の魔法。装備適任者はイングズとユウリなのだが、さてどちらがより相応しいのだろうか。

   イングズは、ユウリが持つべきだと考えていた。力、魔力、精神力の全てが備わっていると言っても、その道のプロフェッショナルには到底適わない事を理解しているからだ。

   赤魔導師は剣でも戦える。緊急用と言っては何だが、魔法は白と黒の両者との折り合いを付けて、補助として使っていけば良い。

   例えば治癒魔法はいくら使い手がいても困らない。満場一致の意見により、ケアルはカナーンで既に購入済みだ。

   火炎、冷気、雷撃の属性魔法も、状況に応じて使い分ける事が出来るため、複数所持していて損はない。

   反対に魔物を毒や暗闇、眠らせたりする状態異常系や小人になれる魔法などは、使い手が一人いればいいだろう。

   このように上手く棲み分けしていけば、取り合いになる事も無いのではないだろうか。


「これはユウリが持つべきだ」


   それは本心から言った言葉なのだが、エアロはサラ姫も使用していた魔法。どことなく思い出みたいな感情があるのならば、イングズが持っていても良いのではないかと、ユウリは思う。

   けれど実用的な部分で見れば、白魔法の専門職が持っていた方が真価を発揮出来ると、そう考えるのも確かで。

   使いこなせるかどうかは別として、自分が会得してみたい。サラ姫みたいに、アルクゥと協力して色々な使い道を模索してみたい。

   イングズはユウリが持っていろと言った。やや複雑な心境だが、甘えても良いのだろうか。


「イングズもこう言っているのだから、有り難くユウリが持っていれば良いんじゃない?」


   レフィアも同調したように、微笑み掛ける。おそらくイングズはユウリが思っているよりも、魔法に対して思い入れはあまり持っていないのかもしれない。

   思い出は心の中に沢山ある。今更魔法ひとつでどうこうなるような気持ちではないのだろう。


「うん、それじゃあそうさせてもらおうかな。イングズ、ありがとう」

「礼を言われるような事ではない。大方、サラ姫との思い出の魔法なのだからと考えていたのだろう?」

「ばれてる…」

「そんな事は気にするな。最善の策を取っているだけだ」


   にこり、綺麗に微笑まれてしまえばもう何も言えない。確かにイングズとサラ姫、二人が共同で編み出した魔法という訳でもない。姫が会得していた、ただそれだけだ。

   それを思い出と呼ぶか否かは判断に難しい所。ただ単純に、ユウリが気にしているだけだと、他の皆は感じているだろう。


「ユウリは本当に、他者の事を思いすぎかもしれないね。悪い事では無いけれど、もっと自分の欲を出しても良いと思うよ?」


   少々呆れ気味に苦笑を浮かべながら、アルクゥもユウリに微笑い掛けた。

   自分の意見に自信が持てないのは、すごくよく分かる。違う方面から見た時はどうなのだろうか、他者はどう感じるのか、そんな事を考えてしまうのも、優しい性格ゆえなのか。

   それでもただ意見を待つだけではなく、控えめながらも主張はしてくれる。仲間を想うのは良い事だ。ここぞという時に迷って後手に回らなければ、良しとしよう。


「アルクゥ、今度一緒に魔法の練習しよう?」

「僕で良かったら、いつでも付き合うよ」

「うん、よろしくね」


   こんな風に、こうしたいと言ってくれるのならば、大丈夫。色々と気にしすぎて気に病む事はなさそうだな。アルクゥはユウリの嬉しそうな表情を見て、もう一度彼女に微笑い掛けた。




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