FINAL FANTASY V | ナノ
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 18 イングズとサラ

   急ぎ足で城へ向かう。城門が見えた頃、その前で揺れる金色の髪が確認出来て安堵の息を吐いた。


「無事だったのね、みんな!イングズ…!」

「サラ姫様…ご無事で何よりです」

「あとは聖なる泉でこの指輪を清めれば呪いが解けるはず… 聖なる泉はお城の地下にあります。急ぎましょう!」


   聞けば無事に城へ戻って来れた姫は、未だ呪いが解けていない状況に愕然としたという。

   ジンは確かに封印したはず。これ以上どうしたら、何をしたら良いのか。分からなくて途方に暮れた。

   縋るように父の元へ意見を求めに行くと、封印を完全なものにするには泉で清める必要があるのだ、と返答があった。

   その時感じた安堵は、ここまで生きてきて初だったかもしれない。それはイングズの姿を確認できたこの瞬間に上書きされたのだが。

   事実、他の四人の目がなければ、その胸へ飛び込んでいただろう。

   サラ姫に案内されるがままついて行くと、そこにあるのは穢れを一切感じさせない清らかな水。静かに佇むそれに祈りを込め、指輪を投げ入れた。

   これで。今度こそやっと、呪いが解けたのだろうか。逸る気持ちをそのままに、来た道を戻る。


「お父様…!!」


   玉座の間の扉を開けて目に入ったのは、サラ姫が、イングズがいつも見てきた風景だった。

   王も、皆も、元の姿に戻っている。ああ、これが、望んでやまなかった日常。

   駆け出した姫の身体を両手を広げ受け止めると、感謝の色を滲ませた王の顔がこちらを向いた。


「ありがとう若者たちよ!そなたたちのおかげで皆が救われた」


   王だけではない。傍に控える侍女も、兵士も、老師も、皆が感謝の色で満ち溢れている。

   ウルの村にいた頃も感謝をされる事はあったが、ここまで大きな事を成し遂げた事は、当然ながら無かった。

   照れくささを感じながらも礼を一身に浴びていると、カズスの町が気になって仕方ない様子のレフィアに気付いたルーネスが、王の方を向いた。


「それじゃオレたちはこれで…光の戦士として、旅立たなきゃいけないんだ」

「光の戦士!?」


   城に眠る古い書物で読んだ事がある。かつて溢れ出す光の氾濫から世界を平和へ導いた者達は、闇の戦士と呼ばれていた。

   先に起きた大地震が、世界に様々な悪い影響を及ぼしているのだと、噂は耳に入っている。今度は光の氾濫を抑え込んだ闇が氾濫を起こし始めている、と。そしてそれを払う事が出来るのは、闇と対を成す光の戦士だけなのだと。

   まさか自身がその影響に巻き込まれるとは思ってもいなかったが、そうなった以上、信じざるを得ないのも確かで。

   しかし、こんな若者が光の戦士として選ばれるとは。過酷な運命を背負わされる事になるのが分かっていて、なぜ。

   …いや。選ばれし者とは、その運命を受け入れているからこそ選ばれているのか。


「イングズよ、そなたも行ってしまうのか…」


   王の落胆している声は、イングズの決断を一瞬鈍らせた。

   しかし、もう決めたのだ。兵士たるもの、一度決めた決断を取りやめるなど言語道断。腹を括るのだ。

   旅立つ意志を伝えると、イングズを見つめる瞳が僅かに揺れる。そこに見えるのは落胆だけではなく、これから大儀を成し得ようとする息子を送り出す、父のような色も含まれていた。


「そうか…分かった。そなたたちが力を合わせれば、どんな困難にも立ち向かえるだろう」


   大丈夫だ。心強い仲間がいる。クリスタルの加護も付いている。何も心配する事はないのだから。

   旅立ちの餞別にと、折り畳み式のカヌーを賜った。そういえばジンのいた洞窟の前に、シドの飛空艇を停めたままにしている事を思い出す。

   すぐにでも取りに戻ろうとイングズも一歩踏み出した所で、何かに引っ張られる感覚がした。

   振り返り見ると、思わず掴んでしまったのか、自分でも少々驚いた、という表情をしているサラ姫の手が裾を握っている。

   暫し、固まる。振り解くわけにはいかない。だがこのままでは飛空艇を取りに戻れない。

   どうしたものかと考えあぐねていると、姫の気持ちをいち早く察知したレフィアが口を開いた。


「もう夜になるし、私達は自分の家へ戻るわ」

「出発は明日の朝にしませんか?」


   レフィアの目配せに気付いたアルクゥも続ける。イングズと離れがたいのだろう、握った裾を放せずにいるサラ姫を見やると、僅かに赤面していた。


「レフィアをカズスへ送って、私達もウルへ帰るんだよね?」

「そうだな。呪いが解けた報告もしたいし」

「そうだよね、ふふ」

「…………すまない、みんな」


   意図が通じたのだろう。今夜はそれぞれの故郷で過ごす事を了承したイングズの顔には、仄かに苦笑が浮かんでいる。


「…サラよ、あまりイングズを困らせるでないぞ」


   どことなく甘酸っぱいやりとりを目前で見せられた父の気持ちは如何様だったのだろうか。

   複雑の中に垣間見えるのは、信頼のおける彼が一日残ってくれる事を飲んだ歓喜か、娘を取られてしまうかもしれないという焦燥か。


「明日には行ってしまうのね、イングズ…お願い、今夜は一緒に居て欲しいの」


   それは大胆なサラ姫の発言によって、完全に後者へと天秤の針が振りきった。




prev / next

[ back to top ]