FINAL FANTASY V | ナノ
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▼ 14 イングズとの出会い

   周囲の砂を巻き上げながら停泊した飛空艇を降りる前に感じたのは、疑問と違和感だった。

   静かすぎる。通常ならば如何なる事態が起こっても対応出来るよう、常に見張りの兵士が駐在しているのではないだろうか。空からの来訪者ともなれば尚更、警戒されてもおかしくはないはずだ。

   それなのにこの静けさは一体どういう事なのだろうか。どうにもおかしい。空から見えた限りでは、人っ子一人見当たらなかった。

   飛空艇を停めたのは少し離れた、拓けた場所。そこから徒歩で城門へ。さわさわと風が木々の葉を揺らす。聞こえるのは四人の足音、衣擦れの音、鳥の鳴き声などの自然音。

   違和感。その正体は城内で人が生活している───歩いたり会話をしたり、ごく一般的な───音が全くしない事だった。

   そして、既視感。同じだ、カズスの町と。まさかこれは、サスーン城にも呪いの手が伸びていたという事なのだろうか…いや、その逆か。

   呪いの主ジンは、ミスリルの指輪がサスーンにある事を知っていたのだ。指輪があれども使う者がいなければ意味がないと、そう確信したと考えるのが妥当だろう。

   焦燥感に苛まれ、自然と皆が足早になる。視界に捉えたのは閉ざされている城門、その前に呆然と城を見上げる一人の男性。

   何か、事態を知っているかもしれない。こちらに気が付いた彼に、この城に何があったのかと問い掛けた。突然の来訪者にもさして驚かず伏し目がちに語られる彼の表情は、絶望を物語っているようだ。


「城の人はジンの呪いによって姿を変えられてしまった。ミスリルの指輪があれば呪いは解けるらしいのだが、カズスも同じ有り様のようだし…私は外に出ていたので助かったが、一体どうしたらいいのか…」


   やはりと言うべきか。予想は当たっていた。短い金色の髪を風に揺らし俯く彼に思うところがあったのだろう、災厄の前にカズスを飛び出していた自分と重なったのか、レフィアが口を開いた。


「わたしはカズスの鍛冶屋の娘です。王様が父の作った指輪を持っているはずです!」


   それは予想外の情報だったのか、レフィアの方を向いた彼の瞳が僅かに見開かれる。


「僕達、王様に指輪を借りに来たんです。お願いです、王様に会わせてください!」

「なるほど…」


   こんな、自分とあまり年齢が変わらない者達が呪いを解こうとしているのか。とは言え素性の不明な者を客人と扱っても良いものだろうか。だが他の方法も思い当たらない。

   これが希望の光となるのか、果たして。少々思案した後、彼は一つ頷いて、続けた。


「おまえ達を王に会わせよう。私は先に行っているぞ」


   どちらにせよ、今より悪い方向へ城の未来が転がる事は無いのだから。

   謁見の間に向かう間に、彼は思った。状況を打破出来る可能性があるものは全て試してからでも遅くないのだと。

   自分は此処サスーン城の兵士。城を、王を、民を救う手立てがあるのならば、それに従うのみ。忠誠を誓う国の為ならば、喜んで試練へ挑もうではないか。

   城には現在、多数の呪いを受けた人々が、色を持たない透明の姿になり蠢いている。それを不思議に思わず、不気味がらずに居られる訪問者達は、やはり本当に呪いの正体を知っているのだろう。

   玉座に力なく腰掛けている王は、透明な姿ゆえに表情を伺い知る事は叶わないが、雰囲気が随分と憔悴しているのが見受けられた。跪き頭を垂れると、続いてルーネス達も居住まいを正した。


「陛下。この者たちが呪いを解くのにミスリルの指輪が必要だと…」

「なるほど。ミスリルの指輪の力でジンを封印しようというのか…だが肝心の指輪を持つサラがどこにも見当たらんのだ…」

「サラ姫様が!まさかジンに攫われたのでは!?」

「おおサラよ…ジンはここから北にある封印の洞窟にいるはずだが…」


   彼とサスーン王の会話を聞く限り、どうやらミスリル指輪はサラという名の姫が持っているのだが、姿が見えないようだ。

   姫が指輪を持っているのならば、呪いを受けなかった可能性が高い。封印の力を宿している程だ、無効化するくらい造作ない事だろう。

   そしておそらく、姫は指輪の力にも気が付いている。ジンが北の洞窟にいるというのが本当ならば、そこに向かったと考えるのが自然だ。

   北の洞窟へ向かい、姫と合流し指輪を借り受けたらジンを封印する。するべき事はひとつだと、二人の会話を聞いていたルーネスが口を開いた。


「分かった、封印の洞窟はここから北だな。オレ達が行ってみるよ!」


   提案に振り返った兵士の瞳に、僅かだが希望の光が宿る。状況を打破する手段を模索していた先程までは無かったものだ。

   北の洞窟は魔物が蔓延る魔窟。何の迷いもなく、行くと言えるその勇気。勇敢な姿を、素直に凄いと思える。

   この者達ならば。必ずや力を合わせ、共に呪いを解く事が出来るだろう、と。その思いから、自然と同行を申し出ていた。


「陛下!私もこの者たちに同行し、サラ姫様をお助けします…!」

「よくぞ申した、イングズよ!そなたたちも良いかな?」


   イングズ。どうやらそれが、この兵士の名前のようだ。

   そういえばお互い名乗り合っていなかったな。用件が先立って、そんなタイミングも逃していた事に気付いた。

   サスーンの兵士は、剣術もさることながら人によっては魔法の扱いにも長けていると聞く。

   そんな手練れが一人増えてくれるだなんて、非常に心強い。魔物との戦闘も、格段に早く片付くだろう。

   断る理由なんてどこにもない。喜んで、共に行こう。


「勿論だ。よろしくな、イングズ。オレはルーネス」

「僕はアルクゥです」

「私はユウリ」

「わたしはレフィアよ。よろしくね!」


   軽く自己紹介を済まし今後の予定を取り決めた。すぐにでも出発したい所だが、相手は炎の魔人。まずは準備が必要だ。

   王から賜ったサスーンに古くから伝わる宝剣を取りに左の塔へ向かう。そこに眠っていた剣の名はワイトスレイヤー。特にアンデットの魔物に絶大な効力を発揮するという。

   美しい装飾、煌めく剣身に、目を奪われた。同時にこの剣を扱うのに相応しいのは、イングズなのではないか、と。

   サスーン城の宝剣だから、と言えばそうなのだが、それだけではない。手に馴染む様子、構えたその姿が、イングズでないと扱えないのではないかと錯覚する程に、扱うべき者として相応しいと感じたのだ。

   同じく剣を扱う者として、ルーネスもそう感じた。武器は人を選ぶというのを、雰囲気で察する事が出来る。

   新しい仲間、新しい武器。次なる定まった目的地へ向け、決戦の地へ赴く準備は整った。




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