FINAL FANTASY V | ナノ
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▼ 12 レフィアとの出会い

   カズスの西に小さい砂漠がある。

   シドから拝借した飛空艇を探すために、三人は黄金色に敷き詰められた砂の上を歩いていた。


「暑い…」


   じりじりと容赦なく照りつける日射しに、思わず言葉が零れる。不思議な事に、暑いと言葉にしてしまうとより暑く感じてしまう。一体何の効果なのだろうか。全く以て嬉しくない。

   草原とは違い砂に足を取られながらも、目的の艇を探す事どれくらい経っただろうか。

   喉が乾きを訴えてきた頃、砂煙の向こうに何か、大きな塊が見えた。

   あれがシドの飛空艇かもしれない。期待して近付いてみると、そこには石柱が立っていた。少々怪しいが、他にそれらしい物も無い。中央にあるボタンを押すと、砂中へと続く階段が現れた。

   成る程、シドは飛空艇を「隠している」と言ってた。本体は砂中へ隠し、仕掛けを作動させる事で中へ入れるようにしていたのか。


「確かに、砂漠にそのまま停めていたら、隠してる事にならないもんね」


   中に魔物が入り込んでいるかもしれない、危険だからという理由で最後に階段を降りていたユウリは、独り言のように呟いた。


「それにしても、どうやって砂の中に埋めたんだろうね?」

「まさか掘って埋めたわけじゃないだろうし、潜水みたいな機能が備わっているのかもね」


   前を降りているアルクゥが振り返って言葉を拾ってくれる。同時に「砂で滑るから危ないよ」と、ユウリの手を取った。


「ありがとう、アルクゥ」


   幼なじみながらも、ユウリはアルクゥの事を時折兄のように感じる事がある。今のように手を取って支えてくれる事もそうだが、彼の持つ知識で色々な事を教えて貰ったりと、何かと面倒見が良いのだ。

   よく周りを見ている、世話を焼くのは元来の性格だと言われたらそれまでなのだが。それでも、ユウリにとってはアルクゥの事も、ルーネスとは違う要素で頼りになると感じている。

   お礼を言われ、手を握り返された彼はふわりと微笑んだ。まだ幼さが残るながらも、整った目鼻立ちと優しい瞳が語るのか、時折年齢よりも大人びて見える時がある。

   それはユウリにしか見せないものなのかどうなのか、ユウリには知る由もなく。


「きゃっ!?…誰よ、あなたたち…!?」


   地中に反響する声。女の子だ。アルクゥに手を引かれながら辿り着いた艇内、二人よりも一足先に降り立ったルーネスが、声のした方を見やり質問を投げた。


「おまえこそ誰だよ!?この飛空艇は、オレたちがシドから借りたんだぞ!」

「わたしはレフィアよ。カズスの鍛冶屋でこの船の部品もいくつか作ったんだから!」


   レフィア、と。今、声の主は確かにレフィアと名乗った。

   ユウリが探していた彼女と今、再会出来る。遠くまで行ってしまっているかもしれない、どうか無事でいてほしいと願ったレフィアを、こんなにも早く見付けることが出来たなんて。

   アルクゥに引かれていた手を離し、ルーネスの隣へ並ぶ。ユウリに気付いたレフィアの表情が、警戒から安堵へ変わり、みるみるうちに笑顔になる。


「ユウリじゃない!どうしたのよ、こんな所で会うなんて!?」

「レフィア、無事で良かった!あのね、実は…」


   ユウリはカズスで起きている事、なぜここに来たのか、これからしなければならない事の経緯を説明した。

   クリスタルに語りかけられたという事までは話題に出さなかったが、そこは今触れなくても良い事だろう。

   どうやらレフィアは本当に家出をしていたらしく、シドが宿屋に宿泊している事が分かると、隠し場所を知っていたこの飛空艇に、一時的に身を寄せていたという。

   カズスに起きている呪いの事は知らなかったようだ。彼女が出て行った直後の事だったらしい。ひどく不安げな様子を見せ、町の人々を、父を、心配しているようだった。


「呪いを掛けたジンを封印するには、ミスリルの指輪が必要なの。レフィア、お願いできないかな?」

「わたしは…ごめんなさい、ちゃんと修行してなかったから作れないの…」

「シドが聞いたらガッカリするぜ。さぼってる場合じゃないだろ!」


   ルーネスの言い方には少々棘が含まれているように感じるが、この一大事の時。

   確かに、彼女が真面目に修行をし、ミスリルを打てるようになっていたのならば、すぐにでも封印の手筈が整うのも事実だった。

   だが、レフィアはまだ十代の、少女と呼んでも違和感はあまりない年頃。鍛冶屋の跡取りとして日夜力仕事に明け暮れて、嫌悪が差さないとも限らないだろう。

   ならば、どうしたらいいのか。申し訳無さそうにうなだれるレフィアをなんとか元気付けたいが、生憎代わりの案も浮かばない。ともすれば。


「レフィア、ミスリルの指輪はいくつか無いのかな?昔ジンを封印した時に使っていた物の他に、誰かに贈ったとか」


   レフィアはユウリの言葉に顔を上げ、ううんと首を傾けた。暫し記憶を辿っていたが、何かを思い出したようだ。手を叩き、良い記憶なのか明るく話し出す。


「そうだわ!昔、お父さんが作った指輪をサスーンの王様が持っているわ」

「本当!?それなら早速サスーン王に謁見して、指輪を借りられないか頼んでみよう?」

「そうだな、打つ手があると分かったらこっちのもんだ」

「この飛空艇で飛んでいけばすぐに着くはずだよ」


   可能性が残されていた事が分かり、ユウリ、ルーネス、アルクゥも安堵の表情を浮かべる。この地方を治めている、サスーン城。目的地は現時点より北東。

   いち村人が一国の王に謁見する事が出来るのかは疑問だが、そこは一大事だと状況を説明すれば、取り次いでもらえるだろう。


「ねえ、わたしも一緒に連れて行って。ミスリルの指輪は作れないけど…お父さんとカズスの人たちを助けたいの!」


   ルーネスとアルクゥが飛空艇の操縦方法を調べている間、レフィアはユウリに同行を申し出た。これはこちらからしても好都合だ。ここで降ろすのは以ての外、彼女を町に送り戻す事も今は出来ない。

   それに、仲間が増えるというのはとても嬉しい。特にレフィアは女の子。ユウリにとって、一緒に行動できるというのは非常に心強いのだ。


「もちろんだよ!ねえ、ルーネス、アルクゥ!レフィアも一緒に来てくれるって!」

「わ、本当?一緒に行ってもらおうよ、ルーネス!」

「そうだな。まぁ、さぼってたおかげで呪われなくて良かったんじゃないか?」

「もうっ…!」


   皆、自然と笑顔が零れ出す。ルーネスの憎まれ口も本気で言っているわけではないと分かっているから、レフィアも少し照れ臭そうにはしているが、笑って受け止める事が出来る。

   人々に呪いを掛けられる程のものが相手ということは、一筋縄ではいかないだろう。非常に手強く、また、四人とは力の差があるかもしれない。

   だが今は、この時をとても楽しいと感じている。大丈夫、大丈夫。そう自分に言い聞かせて、この先も続く冒険の序章に色を付けるのだ。

   ───ゴウン…

   大きな音を立てて、飛空艇のエンジンが動き出した。


「出発進行!」


   プロペラが回り、勢いよく地上へ飛び出す一隻の艇。

   目的は一つ。今やるべき事は決まっている。目指す先へ、大空へ舞い上がる飛空艇が航路を決めた。




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