▼ 10 飛空艇技師シド
カズスへの道中、何度か魔物と接触した。その度にルーネスが剣で斬り伏せ、アルクゥもナイフで仕留め損ねた魔物に追い討ちを掛けていた。
魔物は明らかに、敵意を持って襲ってきている。これも例の大地震のもたらす影響のひとつなのだろうか。
とは言え相手の戦意を削いでしまえば、こちらが勝利したも同然だ。出来るだけ、無駄な殺生は避けていきたいと思い実行しながら、カズスの町へ到着した。
外から見る限り、何かの気配はするような、しかし物音ひとつ聞こえない。どこか暗く、陰気な空気が流れている。
町の入口から中の様子を伺うと、確かに人の姿は見当たらない。先へ進もうとしたところで、アルクゥが固まっているのが見えた。
ルーネスが声を掛けようとアルクゥの肩に手を置いたところで、
「ギャ!!」
アルクゥの悲鳴が響き渡った。
「落ち着けよアルクゥ、オレだよ、ルーネスだよ!」
「な、なんだルーネスか…びっくりした…」
「びっくりしたのはこっちだよ、お前どうかしちゃったんじゃないのか?」
「大丈夫?」
「違うんだよ、あれを見て!」
「…うわ、なんだあれ」
何が違うのかと、腰を抜かしているアルクゥが指差した方向に視線を向けると、そこには人とは違う、だが人の姿を象っている物体が動いていた。透明人間、という表現が見事に当てはまる。
もしやカズスに出没する幽霊とはこれの事か。確かに一見すると幽霊のようにも思えるが、一般的に幽霊というのはもう少し姿が見えているのではないだろうか?
よく聞くのは身体が透けていて、足が無く、ふわふわと漂っている。しかしここにいる幽霊は何か違う。何かがおかしい。
もしかしてこの幽霊達は人間で、町に呪いが掛けられたというのも、噂ではなく本当の事だったのではないだろうか。
だとすると解決方法を探らなければ。ルーネスが考え事にうーんと首を捻っている隣で、ユウリが辺りを見渡している。
「ルーネス、誰かお話出来るひとを探そう?何か分かるかもしれない」
「ああ、そうしよう。このままここで考えていても、どうしたらいいか分からないからな。ほらアルクゥ、立てるか?」
未だ身を縮こませているアルクゥに手を貸し起き上がらせると、三人は状況を知るために町の中心部へと向かった。
まず目を付けたのは宿屋。ここならば人がたくさんいるだろう、ならば有益な情報が得られるかもしれないと思ったからだ。
「わしはシド。カナーンから来たんじゃが、ネルブの谷が大岩でふさがれてしまい帰れなくなってしまってのう…。そこでこの町に一晩宿を求めたのじゃが 、このざまじゃ。フォフォフォ!」
その考えは当たっていた。宿に隣接する酒場の一角に、妙に陽気な雰囲気を纏った透明人間を見かけたので、思い切って声を掛けてみたのだ。
シドと名乗った彼に、この町の呪いを解きに来た事、人々を助けるそのために、何か知っている事は無いかと尋ねた所、なんとも羽振りの良い答えが返ってきた。
「そうじゃ、わしの飛空艇を貸してやるから、なんとかしてくれんかのう?」
「飛空艇?飛空艇って空を飛ぶ船の事だよな?」
「そんな凄い乗り物を貸していただけるんですか?」
「私、飛空艇って見た事ない…」
「フォフォ。なに、元の姿に戻れるならそれくらいお安い御用じゃ。いくらでも貸すわい。ミスリルの指輪があれば呪いが解けるらしいのじゃが、この町には無いようじゃ…。新しく作るにも、鍛冶屋のタカもユーレイになってしまい修行中の娘は行方がわからん…」
声色から、非常に落胆しているのが伺える。それもそうだろう、何かの用でこの町に来たら帰り道の谷を塞がれ、仕方なしに一泊したら呪いを掛けられ、そのまま自分の住む家に帰れなくなったのだ。
望みのミスリルの指輪も、この町には無いと言う。加えてそれを作れる鍛冶屋も幽霊になってしまい、新たに作る事も出来ない状況。
逆の立場になった時の事を考えると、自分に出来る事があるのなら、それが呪いを解くのに役立つのならば、喜んで手を貸すだろう。
「飛空艇は西の砂漠に隠してある。頼む!なんとかしてくれ!」
「任せて下さい。必ずこの町の呪いを解いて、元に戻してみせます!」
最初からそのつもりで来たのも確かだが、シドの頼みを断るはずもない。輪郭しか見えない彼にもう一度飛空艇の礼を言うと、一行は鍛冶屋の元へ向かった。
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