▼ 6 安心をくれる温もり
いつからだろうか。
村の男の子に意地悪された時、転んで怪我をした時、吹き荒ぶ風や轟く雷鳴が怖くて怯えていた時、母親と言い合いになり思ってもいない事を言ってしまって自己嫌悪に陥った時。
どんな時でも、ルーネスの腕に包まれていると、不思議と気持ちが落ち着いた。
事案によって落ち着くまでに掛かる時間はまちまちだったが、それでも必ず心が静まったのだ。
人肌がもたらす体温なのか、とくんとくんと一定のリズムを刻む鼓動の音なのか。何がそこまでユウリを安心させるのか、ユウリ自身も分からないでいた。
ただ、ルーネスにこうしてもらう事が好きだった。 ルーネスの匂いに包まれて、そのまま眠ってしまう時もあった。
ただひたすらに、安心するのだ。ルーネスに触れて、触れられていると。
優しく名前を呼んでくれる声。あやすように髪を撫でてくれる手。慈しむように弧を描く瞳。その全てが嬉しい。
いつから、なのだろうか。それに気付いたのは。物心ついた時には既にそうだったような気もする。ならばきっかけは、何だったのだろうか。
それは思い出せなかった。そもそも、きっかけなど無かったのかもしれない。強いて言うならば、村の男の子に意地悪されて、泣きながら家に帰った時だったか。
あの時も、まだ小さかったユウリの身体を抱き締めて、というよりも腕の中に閉じこめて。守る、と。心配するな、と。今みたいに、そう言ってくれた。
その後、件の男の子はルーネスによって制裁を受け、それ以来 意地悪をされる回数は格段に減ったというオマケの話も付けよう。
ともかく、度々そう言った事があったからなのか、ユウリのルーネスへ対する信頼度は非常に高いのだ。同時にルーネスも、ユウリを守るという事をごく当たり前の事と受け入れている。そしてそれを二人共、心地好いと感じている。
自然と、お互いがそうなっていったのだろう。守り守られ、関係を築いていった。
それは旅に出る前の今も、そして旅立ってからも変わらないでいたい、と。
ルーネスはユウリを抱き締めながら、ユウリはルーネスの腕に包まれながら、それぞれ願っていた。
少しだけ身体を離すと、視線が交わる。ふ、と。互いに、自然と笑みが零れた。
少しの間見つめ合った後、どちらからともなく、吸い寄せられるように再び影を重ねる。ルーネスの背に腕を回して、先程よりも、強く。
ずっと、こうしていたい。
そこに感じたのは、確かな体温と、泣いてしまいそうなほどの幸福感だった。
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