リト×ミリア



今年も早いもので今日はバレンタインデーだ。
去年は姫様からチョコレートを頂き、幸せだった。本当に幸せだった。
まだあの姫様からのチョコレートの箱は大切にとってある。
……気持ち悪いのは重々承知だ。しかしどうしても捨てられなかったのだ。

そんなことはどうだっていい。
今年はちゃんと俺もバレンタインに向けて用意をした。
そもそも、バレンタインは女性からと決まっているわけではないらしい。男性から送る場合も世界では多いらしいし、そもそもチョコじゃなくても構わないらしい。

今年は俺が姫様にプレゼントをしたい。
少しでもこの思いが姫様に伝わればいいのに。いや、伝わってはいけないのだが……。でも少し、本当に少しでいいから姫様に思いが伝わればいいのに。




朝、姫様の様子は普段と何一つ変わらなかった。もしかしたら今日がバレンタインということなど、忘れているのかもしれない。しかし、今年は違う。去年のように取り乱したりなどしない。俺は準備万端だからだ。
店で準備をしながら俺はつい笑ってしまう。

「……気持ち悪いな、お前……見ていて痛いぞ」
「うるさいハイル。俺は今年は準備万端なんだ。去年とは違う……フフフ……」

普段は慣れてしまって少し面倒くさい下ごしらえも何だか楽しい。早く仕事が終わればいいのに。

「気持ち悪いな。お前の愛は重いぞ。少しずつでいいから軽くしないと犯罪に走るぞ」
「大丈夫。俺の愛は姫様にしか反応しない」
「それが重いんだよ」
「なんだとっ!!お前みたいに俺はフラフラとしないんだよ」
「うるせーな。フラれた俺への嫌味か」

喋りすぎだ、と店長に怒られ二人とも静かに準備をした。

「でさぁ、お前何準備したの」

小声でハイルが訪ねてくる。全く、懲りない奴だな。

「なんでお前に先に教えるんだよ。明日な、明日」

ハイルは舌打ちし、へいへいといいながら仕事に戻った。



夜になって、店が開いた途端客でいっぱいになった。相変わらずこの店は人気で、店はカップルや夫婦でいっぱいだ。いったいいつになったら皆様お帰りになるのやら。

俺も早く姫様のもとに行きたい。

しかし、俺の願いも届かず、今年も店が終わるのは遅かった。姫様に伝えていた時間よりも既に30分も遅れてしまった。

店を後にし、花屋に急ぐ。ちゃんと数日前に花束を予約をしていた。ただ時間がもう遅い、やはり閉められているだろうか。

息を切らして店に向かうと花屋の明かりがついていた。
「あ……遅かったですね」
店員さんが笑顔で迎えてくれた。
「あの……本当にすいません。遅くなりました。あの」
「はい、ちゃんとできてますよ」

そういって渡されたのはスイートピーの花束。俺が予約していたものだ。

「本当にありがとうございます!!あと、本当に申し訳ないのですが……」







「姫様。遅くなりました」

急いで帰ると姫様が笑顔で迎えてくれた。

「お帰りなさい、リト。今年もやっぱり店が忙しかったみたいね。お疲れ様」

そういってくれる姫様はやはりお優しい。
「あ、姫様。その」

俺は隠していた花束を姫様に渡す。
「まぁ!!すっごい綺麗!!どうしたの?」

「バレンタインだったので。知ってますか姫様、バレンタインは世界中では男性が女性に贈るのも多いのですよ。だから今年は俺が姫様にプレゼントです」

大きなピンクのスイートピーの花束と小さな真っ赤なバラの花かごを受け取った姫様は満面の笑みを浮かべる。
「本当に綺麗ね。嬉しいわ!けど、なんか恥ずかしいね」


そういってクスクスと笑う姫様に俺は見とれてしまった。
最近気持ちを自覚してからちょっと俺はやばい気がする。姫様のことが愛しすぎる。
いや、抑えろ。抑えろ俺。

「毎日大切にお世話しなくっちゃ」
姫様はそう言って空いてる花瓶を持ってきて大切に飾った。花かごは部屋に飾るらしい。嬉しそうに笑ってくれて俺も凄く嬉しくなった。

「リト、私からも……その……ちょっと待ってて」

そう言うと姫様は部屋に走っていった。少ししたら小さな包みを持ってやってきた。
もしかして。これはもしかして期待してもいいのだろうか。

「へへへ、少しは上手くなったと思うの、去年よりも練習したし。だから、その」

受け取ってください。

そう言いながら俺に向けられた包みに俺は感動してしまい、少しの間動けなかった。
すぐに受け取らない俺に不安になったのか心配そうに俺を見る姫様に気づき、慌てて受け取った。

「いや……その、今年も頂けると思ってなくて。本当に嬉しくて」
「渡すのは当たり前じゃない。リト以外に渡す人なんていないわ」

そう言って微笑む姫様は本当に可愛らしい。
抱きしめたい衝動に駆られたが我慢した。

今年は姫様からのチョコはトリュフだった。包装も去年より綺麗になっていて、味もとても美味しかった。

「姫様とっても美味しいですよ。本当に美味しいです」
「ほんと?嬉しいわ」

二人で笑いあった。
ただそれだけで幸せだった。望みすぎちゃいけない。俺は自分に言い聞かせる。姫様は今年もほかの人に渡していないらしい。それだけでとても嬉しい。姫様からのチョコは義理なのか少しでも気持ちがあるのかはわからない。でもいいんだ。




夜中、俺は部屋に戻った。姫様から貰ったチョコの包装は大切に机の引き出しの奥に閉まった。二つになったそれを見るとまた幸せな気持ちになった。

花屋で追加で頼んだものは真っ赤なバラの花かご。バラは7本。
お店でお客さんの会話が聞こえてきてつい買ってしまった。
花にも意味があるが送る本数にも意味があるらしい。
そのお客さんは11本あげていた。意味は最愛らしい。
そして7本は

「密かな愛……か」

ベットに入り呟く。
我ながらぴったりで笑ってしまう。
この気持ちは気づかれてはいけない。気持ちを伝えて、もし駄目だったら。そんなの想像したくないし、一緒に暮らすことが出来なくなるのは嫌だ。
姫様のことを愛していると同時に、執事として旦那に託された姫様を大切にしたい気持ちは変わらない。姫様が俺のことをそばに置いてくれる限り、俺は姫様の執事として仕えたい。

この薔薇が代わりに伝えてくれたらいいのに。
そんなことを思いながら眠りについた。少し切なかったけど、幸せな気持ちだった。