遥南×悠人


私はスマホを片手に固まっていた。

今日は日曜日だった。
ということは、必死になって作ったチョコを渡すためには悠人を呼び出すしかない。

しかし、冷静になるとなんだか気恥ずかしくなってきて連絡できなくなってしまったのだ。

普段なら大学で毎日顔を合わせるから連絡なんかしなくても会えるのに……。

一生懸命作ったチョコは私の中では上手くできたほうだったし、ラッピングは綺麗にできた。今も机の上にあるピンクの箱は一際目立って見える。あれは彼のもとへ届けてあげたい。

半ばやけくそ気味で画面をタッチした。

「……もしもし?」

割とすぐに悠人は電話に出た。

「あ、あのさ。その……」
「……何?」

電話の向こうの悠人はまるで全部を分かっているようで、少し笑ってた。何だか悔しい。

「あのね、今どこにいる?会いたいんだけど」
「今は外をぶらついてたから、今から行く。10分ぐらいでつくから待ってて」

そう言って電話が切れた。
よく考えたら付き合い始めてから初めてのバレンタインだ。そう気づいてしまうとなんだか緊張してきて部屋の中をぐるぐる回った。


ピンポーン

ベルが鳴る。心臓が跳ね上がった。落ち着け、落ち着け私。相手は悠人だ。

深呼吸し、軽く身だしなみを整えてドアを開ける。

「こんちは」

そう言って微笑む悠人は付き合ってそこそこ経つがやっぱりかっこよかった。

「寒かったでしょ?早く中に入って」

ん、といい入る。ちゃんとお邪魔しますといいながら。そういう律儀なところはやっぱり悠人だ。

「飲み物持ってくるから座ってて」

早口に言いキッチンに向かう。悠人が好きなのはコーヒー、砂糖とミルクは少なめ。
私の分のココアも入れてリビングに向かうと笑いをかみ殺している悠人が。
どうしたのだろうと思っていると悠人は軽く咳払いをして言う。

「気持ちはすっごい嬉しいんだけどね、出来れば目につかないところに置いてほしいかな。ワクワク感とかね、あるじゃん。まぁ遥南らしいけど」

そういって目配せされる。
そこにはリビングに置きっぱなしのチョコレート。

……やらかした。

もうこうなったらやけくそだ。そもそも私に可愛い雰囲気なか似合わない。

「あの……作ったから。ちゃんと私が。教えてもらったから胃薬はいらない……と思います」

何だか顔を見れずに下を向いて渡した。
悠人はありがとうと言って受け取った。食べていいかと聞かれたので頷く。

ラッピングが解かれていく音がやけにはっきりと聞こえる。
大丈夫だったよね、おいしくできてるはず。だって教えてもらったし。でも作ったの私だしなぁ……。
不安が頭の中をぐるぐるしていると私のトリュフを見た悠人が少し笑っていた。
睨み付けると笑いながら謝られた。

「いや、なんか本当に手作りなんだなあって」

不格好なトリュフを一つ口に入れ、ゆっくり味わうと悠人は私の頭を撫でてくれた。

「すっごい美味しい。想像以上だった」
「それって褒めてる?」
「褒めてる褒めてる、すっごい褒めてる。いやぁ、柚木に期待しててって言われてたけどまさかここまでとは」

柚木とは千夏のことである。

「来年は見た目も頑張るから」

「うん。期待してる。けど、これでも充分だよ。綺麗なチョコより遥南らしいというか、本当に遥南が一生懸命に作ってくれたんだなあって感じる」

食べるの勿体ないなあ、と呟いてくれたのがすっごい嬉しかった。
来年はもっと頑張ろう、絶対見た目も綺麗に作る。ちゃんと前から練習する。そう意気込んでいると優しく抱き寄せられた。

「なんかどうしよう、嬉しすぎるんだけど。やべー」

いつもより少しきつく抱きしめられ私も何だか嬉しくなった。
私も背中に腕を回した。

どうしよう、私すっごい幸せ。