今日も私はベランダに居た。何か嫌なことがあったり、モヤモヤしたりするとよくベランダで、ぼーっとする。
 身体中を包み込む風の冷たさとか、見下ろす景色とか。とにかく色々ちょうどいいのだ。
最近高校生になったが新しいクラスに中々馴染めない。辛い毎日だ。時間が経てば何とかなると解っていても辛いもんは辛い。

「自殺志願者さーん?最近、よく下ばっか見つめてるよね」

突然隣から気の抜けた声が。びっくりして見てみると、隣のベランダに人がいるようだ。

「……金沢先輩ですか」

「知ってるんだ」

まぁ、お隣さんですから。とボソボソと言う。
先輩は私の1つ上の先輩で高2だ。

「穂波ちゃんはさ、確か私と同じ高校だったよね」

「知ってたんですか」

先輩は女子バスケ部で朝練があるので、登下校の時間は基本に会わない。

「まぁ、お隣さんですから」

こっち来てよ、と先輩が避難用の壁を叩く。
私は少し悩んでから、壁の側に近寄った。

「いる?」

と横から顔を出しイチゴ味のペロペロキャンディを差し出す。ちなみに先輩はもう舐めている。

「ありがとうございます」

軽く頭を下げ受け取り舐める。久しぶりに舐めるイチゴ味はとても甘くビックリした。昔は大好きでいつも舐めていたのに。

「やっぱり春になったとは言ってもまだ寒いね」

風呂上がりには厳しいや、と全く厳しくなさそうに言う。

「大丈夫ですか? 風邪引いちゃいますよ」

いいのいいの、と先輩は笑う。

「引いても問題ないし。寧ろ引きたい気分。引けたら万々歳だね」

「先輩もですか」

「あら、君も」

そこからはお互い何も話さないし、聞かなかった。
しかし、それでも家の中に入ろうと思わなかったのは、予想以上に先輩の横の居心地が良かったからだ。
ねぇ、と先輩が口を開く。

「その、金沢先輩って止めようよ。学校じゃないんだし」

楓でいいよ。と

「なら楓先輩でいきますね」

呼び捨てでいいのに、と先輩はぶつぶつ言う。

「それでも先輩ですから」

と伝えると、真面目ちゃんね。と返された。

「私も穂波がいいです」

分かった、と先輩は言った。

「流石にちょっと冷えてきた。明日も同じ時間に来れる? また話そうよ」

「いいんですか?」

うん、と先輩は頷く。

「穂波と居るの楽しい」

私もです、と伝えると先輩は
嬉しそうに笑っていた。

「じゃあまた明日。待ってるから」

はい、また明日。そう言うと隣で窓が閉まる音がした。
中に入ったんだなぁとぼんやり思った。飴も無くなったし、もうそろそろ私も戻ろうかな。
また会える。
そう思うと、明日も何だか頑張れそうな気がした。


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