「ねぇ、どうなっているの? どうしてっ……どうしてこんなことに? 私は殺されてしまうのかしら……?」

 今にも溢れそうなぐらい瞳に涙を浮かべる目の前の我が主、ミリア・アーヴィング。淡い桜色のシンプルなドレスに身を包んだ14歳の姫様だ。

 現在、ミリアの部屋に立て籠もっている状態である。しかし、ここに隠れていることはすでにばれてしまっているらしく、ドアを蹴破ろうとする音が響き渡る。

ただ、旦那が溺愛している娘の部屋だ。部屋の頑丈さは凄く、勿論それはドアだって同じである。簡単に人がこじ開けられる物ではない。……のだが、諦めの悪い輩がいるらしい。

 そう、今は簡単に言えば、襲われているのである。

 旦那は……ミリアの父はとても人が悪かったし、他の貴族と上手くいってなかったのだ。

屋敷の使用人や娘にはいい人だったが、他の連中に対してはとても冷淡だ。

他の会社や貴族が援助を求めてもなかなか応じない。お陰で潰れた会社なども少なくない。命を絶ったものも少なくないだろう。違法な取引もしていたらしく、まぁ、他の連中からはとことん嫌われていたのだ。

 そして、このざまだ。旦那はきっと今頃逃げているか、戦っているか、使用人に守られているか……。

まぁ、俺はいち早く姫様と安全な部屋に非難しているというわけだ。姫様に傷をつけるわけにはいかない。

 しかし、連中の恨みは何も悪くない姫様のほうにまで向かっている。このままだと、姫様の身まで危ない。現にこの部屋に乗り込んでこようとしてる奴がいる。

 「ねぇ、リト。私は殺されるの?」

 「大丈夫ですよ、俺がそんなことさせませんから」

 震える姫様の手を両手で包み込み、優しく微笑む。

しかし、やばい。実を言うと、何かあったときのためにこの部屋には外につながる抜け道がある。そこから人が来られたら終わりなのだ。

抜け道から逃げてもいいが、外に出るまでに人が来てしまえば終わりだ。そろそろ外がうるさいので黙らせておきたいとも思う。

 「ねぇ、リト……」

 「大丈夫です、姫様だけは必ず助けます。俺は貴女に忠誠を誓ったでしょう?今まで俺が言ったことを破ったことがありましたか?」

 正直俺は旦那が……いや、小太りな禿げたジジイがどうなろうと知ったこっちゃない。

ただ、姫様だけが無事ならばそれでいいのだ。俺が忠誠を誓ったのは旦那ではない。目の前の小さな、可愛い、世間知らずの姫様なのだ。

 俺は実は捨て子である。なんと10年ほど前、この屋敷の近くにある森に倒れていたらしい。それを姫様が見つけて家に連れて行き、反対する父を説得し、この屋敷においてくれたのだ。そして恩を返したいと姫様に仕える執事になって、7年が経った。

 誓ったのだ。俺が今生きていられているのは、全て姫様のお陰。姫様が望むなら……姫様のためなら、この身体。いや、命を捧げようと。
 俺は腹をくくった。

 「姫様、一つだけ教えて下さい。これからは辛い毎日になるでしょう。生きたいですか?」

 勿論、殺すつもりは無いが、世間知らずな姫様にこれからの毎日は辛いだろう。最悪、死を望むなら。俺は楽に天国へ連れて行くつもりだ。

 「……嫌よ、死にたくない。私は生きたい。私は、リトと生きていきたいの」

 「……え?」

 思わず耳を疑う。

 「リトが何を考えているかはなんとなく分かるよ。だから。その上で貴方に命じます。貴方も生きて、私をこの屋敷から逃がして」

 「……ふっ」

 思わず苦笑してしまう。この姫様はそれがどんなに難しいかを分かった上でこんなことを命じるのだ。俺と一緒に生きたいと。

 「出来ないの、リト?」

 「……いえ、姫様。仰せのままに」

 燕尾服を整え綺麗に腰を折った。
 それが姫様の望むことなら仕方が無い。

 「しかし、旦那はいいのですか?」

 「正直、この騒ぎで父が生きているとは思えないの。向こうも剣の扱いには慣れてないでしょうが、父も使用人もなれてはいない。それに段々と音も静かになっているのに、使用人と思われる人はこの部屋には来ないんだもの……」

 姫様は唇を噛みしめ、溢れそうな涙を必死に堪える。

 「私は、跡取りとして、この名を守っていく。そのためにも、貴方の助けが欲しい。絶対に死なないで」

 「……」

 俺は何を言えばいいかわからなかった。この少女は、もう悟っているのだ。父は死んだと。自分はたった一人になってしまったと。その上で、自分はこの名を守っていくと。

 「……ほんっと、姫様には敵いませんな」

 「私の部屋にも一つ、剣があるの。どうか」

 そういって剣を手渡される。オーソドックスな形の長剣。これでも姫様も守るため剣の扱いは一通り教わっている。

 ドアの前に立ち小さく深呼吸をする。まだ一応姫様にはクローゼットの中に隠れてもらう。ドアの前にいるのは、今までの足音や声から、きっと4人ほど。

 出来るか?

 いや、出来る出来ないではない。やらなくてはいけない。俺は守らなくてはならない。守りきらなくてはならない。その上で自分自身も生き残っていなくてはならない。無理難題につい笑みが溢れる。
 
 深呼吸をし、剣を握りなおす。叫びながら、俺は鉄壁のドアを押し開けた。    
Swear loyalty to you
(俺は姫様を守る、そう誓ったんだ)

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