「ルーク君、優しい子ね」
マーシェル先生が私のほうを見ていった。
「うん。本当に優しい。ルークがいないと私死んでたかも」
「フフッ。ルーク君のためにも治さないとね」
「うん。まだ死ねないな」
そういい私は笑った。
「絶対に、私が何とかするから。大丈夫」
マーシェル先生はさっきまでのゆるい表情とは違う、真面目な顔で言った。その優しさが痛かった。
自分の病気が治らないなんて随分前からわかっていた。きっと両親が伝えないでとかいったのだろうが、みんなの表情や、いつまでたっても減らないこのきつさ、苦しさ。みんなの接し方が変わった。ルークは一瞬だけ、会うたびに悲しそうな顔をするようになったこと。肌で感じていた。
私は治らないと。
「うん。私も頑張る、死んだらルークが悲しむもんね」
「他の人だって悲しむわよ」
「きっと、誰よりもルークが悲しむと思うよ」
私は即答した。
「あら。ほんと、ここはラブラブね」
マーシェル先生は笑った。
「だから、そうじゃないって! アイツは、そんなこと思ってないよきっと」
「あら、じゃぁ……」
そういってマーシェル先生はニヤニヤし始めた。あっ、そうだ、これじゃ墓穴だ。
「違うよ、違う! そうじゃない、うん。間違えた。ほら先生、早く診察済ましちゃお! うん、早くすればね、ルークもまだ、ってそうじゃない。えーっと――」
「分かったわかった」
焦って意味が分からなくなってきたリゼルの頭を軽くポンポンッと叩いた。
「恋バナは今度聞かせてもらうわ。とりあえず、今は医者の仕事をする。これでいいでしょ?」
「……しょうがないな。ほんとマーシェル先生って油断のすきもないって言うか」
「褒め言葉として受け取っとくわね」
そういってマーシェルは病室のドアを開けた。
治療はいつもより少し長くなっていた。1人で少し長い廊下を歩き、自分の病室に戻る。
「ルークまだいたの?」
いつもより長かったのにそこにはまだルークの姿があった。
「薬を飲んでね、さっきよりもっと楽になったんだ」
そういって微笑んだ。これは事実。さっきよりも随分楽になった。
「そっか、よかったな」
ルークも笑みを返した。この笑顔に何回助けられただろう、生きる希望を持たせてくれただろう。
心から安心できるから、希望が持てたから、ルークの前だけでは本当に笑顔が出せた。心の底から笑えた。作り物じゃない笑顔が出せた。自分を作る必要もなかった。
「お前の病気、俺が治してやるからな」
突然ルークは真面目な顔で言った。
「どうしたのルーク? 医者でも目指すつもり?」
冗談っぽく彼女は笑った。そうしてなきゃ、泣きそうになる。その優しさが痛すぎる。
「まぁそんなとこだ。もう遅いし今日は帰るよ。じゃあな」
そういってルークは手を差し出した。私は少し驚いたが、手を握り返した。自分の持っている最大の力を出して強く、強く握り締めた。
「ほんと、どうしたの? 今日のルーク変なの。また明日ね」
しかし、ルークはいつもと違う。明らかに違う。頭が、心が、体が、全てが、何かが違う、危険だ、このままルークを帰らせちゃいけないと叫んでいた。
「絶対、絶対に明日も来てね! 私の病気、治してくれるんでしょ!! 待ってるから!!」
私は思わず叫んだ。ここが病室だってことも忘れた。
もう彼は来ないような気がしたから。下手すれば、一生あえないんじゃないかと思った。彼の背中はあまりにも逞しく、そして寂しかった。
リゼルの思いも届かずドアは閉まり、ルークは帰った。なぜか涙がとめどなく溢れてきた。
もう彼は来ないんだろう、そう直感的に分かった。自分が彼を変えたのだ。優しくて明るくて、無邪気なただの少年だった彼を。
彼が闇を持つ必要なんてなかった。しかし、あの時、体が動いたのだ。そう、あれは最善の選択だった。今でもそう思う。後悔はない。あれは、間違っていない。だって・・・・・・そうしなきゃ、彼がこうなっていた。でも、そのせいで彼は自ら闇を背負った。
「もう、どうすればよかったの……」
それは今の自分に言ってるのか、過去の自分に問いているのか。
薔薇の花びらが一枚散った。
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はい、こういうの書いてみたかったから楽しかったですww
結構面白くないですか?実は相手は洸考えてたみたいなの……
まぁこれはそんな意外な感じの小説ではないけどさ←
読んでいただきありがとうございました。