「リゼル大丈夫?」
今日も彼はやってきた。
「うん、今日は気分がいいんだ。もうすぐ退院できそう。あっ薔薇だ」
私はベッドから起き上がり、本を閉じた。毎日彼が来てくれるこの時間が大好きだった。一人ぼっちじゃないと感じられる。
「うん、リゼル薔薇がすきだっただろ? 今代えるから」
そういい彼は――ルークは花を入れ替えた。
リゼルは彼の持ってきてくれる花が大好きだった。他の人も花を持ってきてくれたが、いつも正直言ってあまり好きじゃないようなやつばかり。匂いがすごくきつかった時もあった。しかし、ルークの持ってくる花はいつもリゼルの好みのやつばかりで、今までで一回も外したことはない。リゼル自身もすごいと思っていた。
「ありがとう」
そう言い、私は笑った。それにルークも笑みを返してくれる。
――あっ、この笑顔好きだな
リゼルはいつも思った。このルークの優しい笑顔が大好きだ。少しぎこちなさは残るが、彼の優しさが表面にしっかりと出ていて、見ていて安心できる。
「ルーク。……ルーク? どうしたの?」
彼はボーっとしてた。私が入院してから、ルークはボーっとしたり、何かを考え込んでいたり、悲しそうな顔をするようになった。
――やっぱり病気のせいかな
ルークはリゼルが病気になったのを自分のせいだと思っていることにはすぐに気付いた。あれだけ長い時間一緒にいたのだから、簡単に分かる。
全然そんなことないのに。あれは、私が勝手にしたことなのに。
それが逆に彼に気を使わせてしまっていた。彼の中に1つの闇を作りこんでしまっていた。そのことがリゼル自身本当につらかった。だって自分がこうなったのは自分のせいなのだから。
「ルーク、ルーク! ルーク! どうしたの? ボーっとしてるよ、何かあった?」
彼はハッとしたように前を向き、
「えっ、うん。どうした?」
そういって私の頭に手を乗せた。その手は小刻みに震えていた。それが私のせいだと思うと本当に辛かった。
「どうしたの? 何かあった? 手、震えてるよ。」
そういうと彼はびっくりしたように自分の手を、体を見つめていた。
「大丈夫大丈夫、最近疲れているからかもな。気にしなくていいから」
「大丈夫? 毎日来るから疲れたんじゃない? 別に毎日来なくてもいいよ」
リゼルは軽くベッドから身を乗り出していった。
「大丈夫、大丈夫。リゼルは気にしなくていいから」
そういいながらルークは私をベッドに寝かせた。その時に触れた彼の暖かい手に安心した。何故だが泣きそうになった。
「ねぇ、本当にさ、私は大丈夫だよ。明日には元気になってるから」
そういって私は微笑んだ。上手く笑えているか分からない。だけど、心配はかけたくなかった。彼が笑顔でいてくれるなら。その思いでいっぱいだった。
ルークは私の頬に手を添えた。そのとき、
「あら、ルーク君、私、邪魔かしら?」
そういって入ってきたのは彼女の担当の女医、マーシェル。
「いいえ、遊びに来ただけです、からかわないでくださいよ」
そういいルークは彼女の頬を軽くつねった。
「痛っ。意味わかんない。痛いんだけど」
彼女は笑いながら言った。こういうルークの優しさが好きだった。この僅かな痛みさえ愛おしかった。生きてる、まだ生きてると実感する。まだ自分は存在していると。
「それに、マーシェル先生もからかわないでよ。せっかくルークが心配してくれてんのにさ。明日来なかったら先生のせいだからね。また1人で寂しくなるじゃん」
そういって少し不機嫌そうな顔をする。
「はいはい、そうね。悪かったわ。ただ、もう診察の時間よ。いちゃつくのはその後にして」
「だから、そうじゃないってばぁ!」
「はいはい、とにかく診察よ。」
そういいマーシェルは私を起こさせた。私は、はーい。とゆるい返事をし、ゆっくりと先生と一緒に歩き出した。
「また、来てね」
そういって私は診察に向かった。自分でも矛盾してるなと思う。来て欲しいのか来て欲しくないのか。わけが分からず、つい、ため息をつく。