「どうでした?」
「おう、話がついたよ。OKだとさ。だけど、お前本当にいいのか」
低い男の声が返ってくる。怖そうな声だが、同時に優しい響きを持っていた。
「はい、俺のせいですし。なんとかしなくちゃいけませんから」
「くぅぅ。かっちょいいねぇ、はいよ、どうせお前に何を言っても無駄だろ?住所は前教えてたとおりだ。しかしよ、どうなるか分かんねぇぞ、後悔しねぇのか」
「後悔ならもうすでにしています。まぁ、ありがとうございました。代金は――」
「後払いだ。必ず支払いに戻って来い。遅くなるごとに利子がつくからな」
ルークの声を遮って言った。それが声の主なりの心配であり、優しさだった。
「俺んとこの利子はそこらへんのとこの倍はあるからな。悪徳金融もびっくりな値段だからな。早くしろよ」
「分かりました。ありがとう、叔父さん」
「いいって。必ず後払いな。俺、金にはうるせーから。じゃぁ」
プープープー
そういって電話は切れた。叔父さん――リゼルの父親の友達は便利屋だ。昔、まだリゼルが元気な頃紹介してもらった。おじさんは法律に歯向かわない程度で、叔父さん本人に出来ることなら何でもしている。
そこに彼は依頼をしていた。ある呪術師に会うことを。
この世の中には魔法を扱う物と扱わない物の二つに分かれる。魔法を扱う物は一部しかおらず、人間には不可能なことをやってのける。それに彼は目をつけたのだ。
−魔法を扱う物のせいで出来た傷は魔法を扱う物で治せるんじゃないか−
彼女の病気はある呪術師にかけられた物だ。きっと呪いだろうと思う。そしてその呪いをかけられたのは自分のせいなのだ。
そもそも、呪いを人間がどうかしようとする時点で無理がある。
実際、病気――呪いの進行を遅らせることが精一杯で直すことは不可能だった。今の状態からして、きっといつ殺せるかはその呪術師が決められるんじゃないかとルークは考えていた。それで、別の呪術師に会えるよう彼に頼み、そして、相手の魔術師からOKが出たのだ。
「ルークまだいたの?」
それなりに時間がたっていたらしくリゼルが戻ってきた。
「薬を飲んでね、さっきよりもっと楽になったんだ」
そういって嬉しそうに微笑んだ。
「そっか、よかったな」
ルークも笑みを返した。
「お前の病気、俺が治してやるからな」
「どうしたのルーク? 医者でも目指すつもり?」
冗談っぽく彼女は笑った。
「まぁそんなとこだ。もう遅いし今日は帰るよ。じゃあな」
そういってルークは手を差し出した。彼女は少し驚き、しかし、またすぐにいつものあの笑みを浮かべながら手を握り返した。
「ほんと、どうしたの? 今日のルーク変なの。また明日ね」
しかし、彼女はまだ彼の言葉の本当の意味を理解していなかった。
その笑みを背に少年は病室の扉を開けた。少年のその背中があまりにも寂しく、あまりにも逞しく見えた。とてつもない不安が胸を襲いリゼルは思わず叫んだ。
「絶対、絶対に明日も来てね! 私の病気、治してくれるんでしょ!! 待ってるから!!」
少年は背中を向けたまま軽く右手を上げ、病室をあとにした。
病院を出てから、ルークは右手を見ていた。
いつからだろう、あの小さな手を守りたくなったのは。それは、責任からかもしれない。後悔からかもしれない。幼馴染ゆえかもしれない。全く違う別の感情かもしれない。だが、理由は何であれ、守ってやりたいと思った。心のそこから助けてやりたいと思った。後悔はない。助けるための道は目の前にある。彼に迷いはなかった。
「ばいばい、リゼル。また必ず戻ってくるから」
小さくそう呟き、彼は病院を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
お待たせしました!初投稿!!
これは本来長編とかで書けるかな……と思ってたんだけど
書けなかったので短編行き(笑)いろいろ考えてはいるけどな……
今回は、物語の始まり風です。呪いとか呪術師とかはあんま気にしないで下さい。
(べ、別に設定考えてないわけじゃないし)
読んでいただき、ありがとうございました。