ときに言葉は、人を縛り付ける。自分は何の気なしに零した言葉でも、相手は長年記憶し続ける、なんてこともあるだろう。言葉のナイフなんてよく言ったものだ。言葉は明確に人を突き刺さし、抉る。それは悪意が込められたものだけではない。情が込められたもの程鋭く、深く深く突き刺さるのだ。その傷はじくりじくりと痛みを主張しながら、しつこく残り続ける。
例えば、切るタイミングを逃して、伸ばしていたままの髪を、焦凍はかわいいと言った。それからなんとなく伸ばし続けている。毛先の散らばる髪を見ながら、今回は短くしようかな、なんて考えたとき。
例えば、単身突撃して攻撃するスタイルのわたしを、焦凍はかっこいいと言った。わたしの戦闘スタイルは、そこからずっと変わらずにいる。でもそれから一度、大きな切り傷をつけて戻った時は、無傷なはずの焦凍がとても痛そうな表情をした。弱々しい声で、怪我には気をつけて欲しいと言ったのだ。だからもっと強くあろうと、トレーニングに励むとき。
例えば、いつかふたりで出かけた日に褒めてくれた香水は、とくに何も考えず適当に選んだつもりだった。とても気に入っていた訳ではないが、なくなる度に買い直した。あの香水を振って、芳香で満たされるとき。
例えば、いつも笑っているわたしが好きだと伝えられた日から、焦凍のことを考えると自然と頬が緩む。そんなとき。
何気ない瞬間にもあの日の傷がじくりじくりと痛んで、主張をやめない。

「愛してる」

熱のこもった灰と青に見つめられて、愛してると言われる度、それは鋭く深く、わたしに突き刺さる。ぐさり、じくり。刺さって、抉って、新たな傷を作る。その傷のひとつひとつが愛おしくて、大切で。

「わたしも愛してる、よ」

「俺はそれ以上に愛してる」

「もおおお…」

わたしの身体中、焦凍がつけた傷跡で溢れていて、痛くて痛くてたまらない。焦凍の愛が込められた言葉が刺さる度にまた傷ができて、今までつけられた傷まで痛むのだ。

「これからもずっと、俺といてくれるか」

優しい目でそんなことを言うから、また、鋭い言葉のナイフが、わたしに深く深く突き刺さった。この傷もなかなか消えないのだろう。消えなくてもいい。傷だらけで動けなくなってもいい。ずっとずっとこのまま、焦凍の愛を刻みつけていて欲しい。



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