死んでみたい 貴方と一度




「いっぺん死んでみるかィ?」
そう言ってニヤリと笑った沖田は神楽の喉元に突きつけた剣の切っ先に一層力を入れた。

「ハッ、ジョーダン。お前にワタシは殺せないネ」

そう言うが早いか神楽は剣をためらいもなく掴む。当然の如く掌に刃がずぶずぶとささり恐ろしいほどに白い肌に流れ落ちる鮮血はまるで雪上に落下した牡丹のよう。

「あーあァ、派手にやっちまって。でもその血そそらァ」

神楽の掌から流れ落ちる真っ赤な液体を掬うように沖田は舐めとってゆく。しかし相変わらず剣を持つ腕は緩まない。

「ほんと趣味悪いアル。あーあァなんでこんな男好きになったのか自分でもワカンナイ。」

目の前でぺろぺろと自らの鮮血をなめる沖田を鼻であしらながも、刃を握る掌の力を緩めない。血はポタポタとリズムよく小気味よい音をたてながら求めている者の為に流れ続けてゆく。

「それはお前、同じ穴の狢だからでィ。寄り添うように寝る捨て猫みてえによ、俺らも人肌が恋しいといつも何かを求めてる」

俺らは同じ生き物だから、惹かれあうのは必然なのだと沖田は常々言っている。

寂しくて、でもかけがえのない仲間がいて、なのにそれだけでは満たされないと本能が疼く。そうして見つけた、なくてはならない、愛しい、自分の片割れ。


「求めあう…ネ。そんなキレイなモンじゃないアル」

「じゃあなんだってんでィ」

苛つくように顔を押し付け神楽の唇を喰らう。手からこぼれ落ちた刀はカラカランと音をたてて落下した。
掌から血を滴らせながら沖田の背中に腕を回す。

「ん…ァ。」

息つく間もないキスに溺れてゆく。

「は…ァ……あのネ、もう半分中毒みたいなもんヨ」

「本能のワタシも受け入れてくれるキチガイなんてまずお前くらいだし…結局は本能のまま行動する一次的欲求の塊ネ」

「お前もワタシもどっかが不良品だから丁度いいのヨ、きっと」

とめどない口づけを制止してぽつりと呟く神楽の表情は読めない。

「それはお前には俺しかいねえって意味でとっていいんですかねぇ」

沖田は爪を神楽の柔らかいな肌に突き立てる。神楽の頬に血がじりと滲んでゆく。
そうして再び、今度は噛みつくようなキスをする。息も止めて呼吸を支配するかのように。

「はぁ…は…んッ」

呼吸を支配された神楽は息も絶え絶えになる。沖田の愛と欲に埋もれてゆく。

「いーヨ、それで。それが結局のところ答えヨ。」

呼吸ができた反動で体を震わせると、答えに満足した沖田が神楽をいたわる。神楽は奇妙な充足感を感じていた。


「さっきの話……」

「ん?」

「いっぺん死んでみるかって」
「あァ」

「お前となら、一緒に死んでやってもいいヨ」

番傘を沖田に突きつけた神楽はにやりとした神楽は挑戦的な目を向ける。

「俺も、お前となら構わねえ」
転がっていた剣を再び手にとり神楽につきつけた沖田もまた微笑していた。

「狂気と愛って紙一重だと思うのヨ、共鳴し合ってるうちに死ねたら最高アル」

「お前にしちゃ最高の提案だと思うぜ、」





「せーのでヨ?」

「せーのってのっていった後か?のっまでいった後か?」

「いちいち細かい男アルなァ」
「かけ声は重要だろうが、間違って片っぽが遺ったりしたら逸れこそ後味が悪ィ」

「じゃ、お互いさよなら言った後。」

「おう、それでいくかィ」

番傘をつきつけたまま神楽はすうと深呼吸をした。

「お前と―一緒にいれて楽しかったヨ。いっぱい思い出できたし。できたら来世でもよろしくナ」

「お前は俺にとって最高の女でさァ。愛してる」

「おいおい、今更そんなこというなヨ」

「言わなくてもわかってたんじゃないんですかィ?」

「女は確かな言葉で言って欲しい生き物なのヨ」

「満足したかィ?」

「聞かなくてもわかってるだロ」




「それじゃあ」


『ばいばい』