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納得するに足る理由/平吉

 吉田氏は僕以外に担当している作家はいないのだろうか。普通、編集者というものは一人で二、三人の作家の面倒を見ていると聞く。
 しかし吉田氏は他の作家の所へ行くでもなく、毎日の様に僕の所へやって来てはさっさと描けとプレッシャーをかけ続ける。本当にたまったものではない。出来ることならば原稿を取りに来るだけにして欲しいというのが僕の率直な気持ちではあるのだが、吉田氏に会えるのは満更悪くないと思っているのも事実であった。

 僕はついに、吉田氏は何故毎日の様にここへ来るのかと尋ねた。彼は僕が描いたネームを読みながら言った。

「何、平丸くんは僕が来るの嫌なの?」

「い、いえ、そういうわけではなく、他の作家さんの所には行かなくて良いのかと思いまして」

 吉田氏だって僕だけを担当しているわけではないでしょう?

 そうしどろもどろになりながら言えば、彼は「ああ、そういうこと」と納得したのか読み終えたネームの角をとんとんと揃えた。

「他の先生はね、平丸くんみたいに逃走したり、休載したいって駄々をこねたりしないからね」

 君ぐらいのもんだよ、と意地悪く笑う。ああそうかと納得しかけた僕は、決して褒められているわけではないことに気付き、吉田氏の手からネームを奪い取った。五ページの二コマ目直したらOKと言うからその通りに直して突き返す。

 吉田氏はそれを再度読み直して僕に返しながら言った。

「それにさあ、平丸くん、俺がいないと何も出来ないでしょ」

 そんなことはない、と思ったがよくよく考えてみるとその通りな気がして、僕は確かにと呟く。吉田氏はそんな僕を至極満足そうに見て、そうだろうと何度も頷いた。

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