君の瞳に/エイ最 「亜城木先生、僕のこと嫌いです?」 「はい?」 思ったことをそのまま口にすれば、亜城木先生は怪訝そうな顔で首を傾げた。それを無視して先生の使っている机までくるくると移動する。亜城木先生はシャーペンを置いて僕の行動を不思議そうに見ていた。机の上に顎を載せ、にひひと笑いかけると先生も釣られたように笑った。 今は福田先生も中井さんも部屋にはいなくて、僕と亜城木先生の二人っきりだった。それに描き直しになった五話目の原稿は既に終わっていたから、こうして亜城木先生に話しかけても誰にも怒られないのだ。 嫌いかなんて聞いたけれど、この人は僕のことが嫌いなのではなく、ライバルとして僕のことを追いかけ、追い越そうと必死になっているだけなのだ、というのはよく解っていた。僕も亜城木先生の描く漫画を面白いと思い、一ファンとして、一漫画家として尊敬していた。 僕は編集部で初めて会った時の亜城木先生の瞳を思い出した。あの熱く、澄んだ瞳。僕に向けられた、あの。 そこに映るのは、それが追いかけるのは、僕だけがいい。 僕だけでいい。 「僕、亜城木先生のこと好きです。だから僕と恋愛しましょう」 出来るだけ真摯に、本気だと解ってもらえるように、困惑の色を塗られた瞳を覗き込んだ。 ても亜城木先生はすぐに視線を外し、しばらくうろうろとさまよわせて、おずおずと口を開いた。 「え、あ、でも僕には彼女がいるから……」 「……彼女です?」 「はい」 「!!」 彼女! 僕は絶望に椅子から転げ落ち、床に頬を押し付ける。 確かにこんなステキな人に恋人がいないハズがなかった。僕はそれをすっかり失念していたのである。きっと亜城木先生にお似合いのとてもステキな人なのだろう。 でも、全くチャンスがない訳ではない。床からがばりと立ち上がり、僕を起こそうとしていた亜城木先生に向き直って先生の両手を握る。 「じゃあその彼女さんよりも僕のこと好きになって貰えるように頑張るです!」 「は!?」 そのためにはたくさんたくさん漫画を描いて、ジャンプで一番の漫画家になる。そうすれば、亜城木先生は僕のことだけ見て、僕だけを追いかけて来てくれるだろうから。 頭の上にクエスチョンマークをたくさん飛ばす亜城木先生を後目に僕は再び机に向かった。 「略奪愛って燃えますね、雄二郎さん」 「はあ?」 prev / back / next zatsu。 |