花火 どおん、どおんと夜空に色とりどりの花が咲いては、ぱらぱらと散ってゆく。人混みからはお決まりの掛け声が歓声と共に上がった。 横で一緒に花火を眺める後輩も、初めのうちは周りと同じように歓声を上げ、たまや、と声を出していたのだが、今は随分と大人しくなっていた。 飽きてしまったのだろうかと、ちらと其方を見ると光を散らす夜空ではなく此方を見詰めていた。瞬き一つしない瞳は花火が上がる度にきらきらと煌めいていて、普段より幾らか幼く見える。「赤也、飽きたのか」 周囲の音に掻き消されないように声を張り上げる。しかし飽和した音に負け、自分の鼓膜さえ震わさなかった。 それでも、此方をじっと凝視していた後輩には何事か解ったらしく、首を横に振った。 「では、どうした」 どうやら飽いたわけではないらしいが、やはり此方から視線を外さない。 問えば、照れたように笑う。 「 」 俺の浴衣の袖を掴み背伸びをした赤也が何事かを耳元で囁く。 丁度大きな音と共に、一番最後であろう特別大きな花火が夜空に開いた時であった。 しかし囁きは消えるどころか、他の音すらも消し、思考を絡めとっていった。 白煙のみを闇に残した花に興味の失せた人々は、ざわめきと共に移動を始めた。その波に流された俺たちはどうにもはぐれそうであったが、その雑踏に紛れ握られた手は、何とも心地よい熱さであった。 「花火なんかよりも柳先輩の方が、ずうっとキレイなんですもん!」 prev / back / next zatsu。 |