テニスの王子様 | ナノ


手を繋ぐ

 手を繋ぎたいと思った。

 学校の帰り道、俺と真田は二人並んで夕焼けの下を歩いていた。特に何を話すでもなく、ただ黙って歩いていた。
 ちらりと真田の顔を見ると西日が眩しいのか、何時もより帽子を目深に被っている。
 右手――俺の居る側だ――をポケットに突っ込んでいるから、勝手に手を取るわけにもいかなず、ぐいと袖を引く。真田は足を止め、俺を見ると僅かに首を傾げた。
「どうした」
「ね、手繋がない?」
「手?」
「うん。手」
 そう言って左手を差し出すと口をへの字に曲げて、手と俺の顔を交互に見た。右手はポケットに入れたままだ。
「嫌かい?」
 真っ黒い帽子の鍔に隠れている同じ色の瞳を上目に覗き込むと、むうと唸って僅かに視線をずらす。
「嫌と言うわけでは、ないのだが…………しい……」
 普段からは想像もつかない程小さい声でもごもごと言う。最後の方など何を言ったのかさっぱり聞き取れなかった。
「真田、聞こえなかった」
「だっ、だから恥ずかしいのだと言っているだろう!」
 と今度は煩いくらいに大声で言う。耳にきいんと響いて少し痛かった。
 帽子の鍔を更に下げ、俯いた顔は殆ど見えない。
 オレンジ色だった空が段々紫色になっていく。
 俺は未だポケットに入ったままの右手を引っ張り出した。
「おっ、おい!」
「大丈夫、大丈夫」
 抗議の声を聞き流して指を絡め、解こうとする腕をがっちりと脇に挟む。
 わあわあと騒ぎながらもがく真田を引き摺りながら、とうとう藍色に染まった空を指差して言った。
「もうこんなに暗いのに、何を恥ずかしがる事があるのさ!」
 大人しくなった真田を見上げれば未だに納得のいかない顔をしていた。
 
 
 
 
 
 
 


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zatsu。


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