「晋助、ご飯」
「後少しだから待ってろ」
「神威、定春に餌あげといて」
「うん」
朝、と呼ぶには遅すぎる時間帯。
一番遅く起きたにも関わらず、大きい態度で二人の青年をこき使う少女。使われる青年二人。馬鹿でかい犬。
傍から見ると異様な光景だけど、これが私達万事屋瑠奈ちゃんの日常。
…こんな事になった全ての始まり。
そう、それは1年前のあれがきっかけだった。
金曜ロードショーで初めて魔〇宅を観た私はキ〇に憧れ焦がれ、色んな因果が絡まり13歳で母星を旅立つ。
ひょんなことから地球のかぶき町に流れ着き、お登勢のばーさんに保護、それから間もなくキ〇と同じように商売をすべく万事屋を開業。
駆け出しは充分すぎる位で評判売り上げ共に上々、家賃も請求されるようになった。
ある日道端に倒れてた晋助を助けたら何故か住み着くようになり、両親から派遣された実兄、神威も無理矢理住み着き、家の前に捨てられてた定春を引き取り、いつの間にかこんなに賑やかに…
といった具合。
皆私が養ってるから、私に頭が上がらないってことでファイナルアンサー?
「おい、一人で回想に浸ってないで飯食べるぞ」
最近主導権を握られてる気もしなくは無いけど…まあいっか
「「「いただきます」」」
「ワン」
目の前に佇むのは目玉焼き、サラダ、バターパン、コーンスープという定番中の定番メニュー。量は尋常ではないけど。
見た目からして常人ではない晋助と作る料理のギャップに驚いたのはもう昔の話だ
「瑠奈、今日何か依頼ある?」
私以上の量をみるみる平らげていく神威。
晋助が食べ方を注意してくるのを聞き流しながら、私も負けずに掻き込む
「あー、あれだよあれ モグモグ どっかの幕府のお偉いさんのボディーガード。今夜パーティーやるんだって」
「報酬がっぽり…セレブ共のパーティー…美味しいご飯…」
「俺らも食えんのか?」
席を立って机からそれ関連の書類を取り出す
食事中に席を立つな、と再び晋助が注意してきたけどスルーだ
「あ、私達も食べられるみたい」
相手方の負担で。
やった思う存分食べてやろ
何度も読み返した書類をまた読むと、今まで見過ごしていた気になるワードが目に付いた
「要・正装って何?」
隣で覗き込んでくる神威に聞くが、首を傾げるばかり
「ちゃんとした着物かタキシード、ドレスを着てこいって事だ。客でないと言えど、護衛は人目に晒されるから何か用意しなきゃならねェかもな」
「マジでか」
着物持って無いし、ドレスとか論が
「あ、これ護衛対象の白鳥って奴が用意してくれるらしいよ」
…ほんとだ。
意味分かんなかったから飛ばしてたけど確かにこちらで用意って書いてある
「…そうか」
なんだ、それなら何も心配は無いね!
「とか思ってた過去の私マジで考え浅はか。死にたい」
「可愛いから何でもいいじゃん。
あ、でもエrい事されそうになったら俺に言ってね、そいつ殺るから」
「殺すのは駄目だ。殴って脅して他人に罪を擦り付けろ。いいな」
「「まあ、そんな事になる前に俺達がお前を守るけどな/守るよ」」
やけにイケボで言う二人だけれど、私からしたら胡散臭さしか感じない。
君達、おっさんのボディーガードが仕事ってこと忘れてるよね
「準備は出来たかね?万事屋さん、頼みましたよ」
「…はーい」
三人と依頼主は、人々がごった返す豪華な会場に足を踏み入れた
そもそも、楽しいパーティー(護衛依頼)にも関わらず瑠奈の気分が最低な理由は今の彼女の服装にあった。
結い上げられた髪、背中がガバッと開いているふりふりのドレス、ガラスの高いヒール。
全体的に真紅で統一されており、瑠奈の持ち前の可愛さを引き立てると共に少女らしからぬ色気を演出している。
このパーティーは富裕層のセレブ女性と幕府方の役人が参加者の殆どを占めている為、結構浮いているが、その自然な美しさが人目を引いているのも事実
「あー…もうやだ、帰りたい」
その内に、白鳥の護衛を始めてから約一時間が経過した。
万事屋として依頼を受けたはずが、いつの間にか晋助と神威は姿を消してるし。
こんな所に一人で置いてかないでよ…心細いんだけど!
ったく、私を守るとか抜かしてた癖に…
「…こんにちは、素敵なお嬢さん」
そして、彼女に近寄る不穏な影が一つ。
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