「おはよーございます…っと」

挨拶と共に事務所内の練習室の扉を開ける。

防音ドア特有のノブの固さにいつもの如くイラつきながらルナは欠伸を零した。


BRR事務所内、シンガンクリムゾンズのメンバーとそのマネージャーである私以外はあまり訪れる事の無いその部屋。

無駄に早起きの彼らが今日も朝から騒いでいるんだろうなぁと完全にめんどくさがっていた。今だから認めるけど。



「すぅ…」

意外や意外に静まり返った室内。
これまた予想外の規則的な寝息が聞こえる方に思わず視線をやる。


ドラムの置いてある少し手前の壁、腕を組みながら眠る天使がそこには居た


「…」



びっくりしてよくよく見たら天使じゃなくてアイオーンだった。老眼には早過ぎる気がしないでもないけど。


珍しいものを見れたという内心の興奮を抑えながら私は忍び足で彼に近寄った。


自らの鼓動が早まるのを感じながら体育座りをし、興味本位で正面から彼を眺めてみる。



「ん…」


呼吸の度に揺れるふわふわの髪の毛、綺麗な形の耳、陶器のような白い肌、長い睫毛、スッと通った鼻筋、薄く開いた唇…


女子顔負けの可愛さとライオン族特有の男らしさを兼ね備えたその人は黙っていれば本当に只のイケメンでしかなかった。黙っていれば。

寝てるのにかっこいいとか嫌味か。





露出された胸板から何となく目を逸らし溜息をつく

ちらり、と誰かが持ち込んだ厨二全開の物凄く見づらい時計を見やると完全にいつもの集合時間を過ぎていた。


__にしても、ここまで揃わないのも珍しいな
クロウやヤイバはともかく、ロムまで遅刻は流石に心配になる。


「ま、そもそもアイオーンが朝一で来てる時点でおかしいんだけどね…」


聖域の守護神(笑)故に朝に半端なく弱いのはとっくのとうに把握済み。

ここで寝てるから結局何も変わらないのかもしれないけど、一応一番早く来たのは事実だよね



にしても他の皆がいつ来るか分かんないし、待っている間ひたすら暇なので…
唐突ですがここで1つ悪戯でも仕掛けてみたいと思います☆ドンドンパフパフ


「ふふふふ…」

__1人で盛り上がって1人で不気味な笑みを零す自分に少し引いたけどそこは気にしたら負け。


素早く手元の鞄からマジックペンを出して蓋を開けると独特の匂いが鼻をついた。脳内でデザインを考えながらどんどん彼の顔にペンを近付けていく


しかし、前髪を掴みあげあとほんの少しだという所で…本当にちょっとの所で…不運にも瞼が開き澄んだ深紅の瞳とダイレクトに視線が交わってしまった



二人の間にかつてない静寂が訪れる


「お、おおおはようアイオ「ぐ、みん…?」


愚民じゃないです。
寝ぼけているのか掠れた声でそう呟いた後ぼーっと私を見つめて放心状態に。

今がチャンスとばかりに慌ててペンを背中に隠し十中八九引きつってるだろうけどアイオーンに向かって微笑む


「あのね、他の皆はまだ来てな…っ!?」


がしっ、と突然勢いよく手首を掴まれたと思ったら、息をつく間もなく肩を押され背中と床がくっつく


「いたっ」


思わず声を漏らすがアイオーンには全く聞こえていないようで。


「あ、アイオーンさん…?何してるんですかね…?」


いくら声を掛けても無反応。せめてもの手段で息を吹きかけると何とか動いてくれた

そして反動で転がったペンを一瞥、また目が合ったかと思うと呑気に大きな欠伸をし…滅多に見せない顔でへらりと笑った。


「…おはよう、ルナ」





彼のキャラ崩壊ものの笑顔の眩しさに戸惑いを隠せない私が気を失うまであと10秒。


アイオーンが私を抱きしめて再び眠りの世界へと旅立つまであと1分。


二人の空間が終わるまであと____




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