distance



クラトスは眉根を寄せて、「暑い」と小さく零していた。

夏の高気温に、さすがのクラトスも参っているらしい。

涼しげな表情とは裏腹に、触れた白い肌は汗ばんで、しっとりとしている。


僕たちだって確かに暑いし、汗も出るし、それが煩わしいとも思うのだが

それでも、クラトスの傍に居たいという願望だけは、年中変わらないようで。




「……二人とも、少し離れてくれまいか」

「何故?」

「……狭いし、暑い」




部屋に備え付けのソファの上。

いつものように、窮屈さを無視して、ジューダスと、クラトスを挟むようにして腰を下ろせば

いつもはなんだかんだで甘受してくれるクラトスが、理由を一つ加えて、逃げようとした。

間に挟まれると余計にそうなのだ、と以前に言っていたことを思い出す。

身を寄せると、実際に暑いし、互いに汗ばんだ肌が触れ合うのも、全く気にならない訳では無いのだが

僕たちの場合、クラトス相手だと、別にそれが嫌だということも無くて。




「こら、逃げるな」

「……お前たちは暑くないのか?」

「暑い」

「だったら」

「それでも、貴方に触れていたい」




腕を伸ばし、二人で挟み込むようにして抱き締め―――ようとしたら

寸前で、クラトスはさっと立ち上がって、逃げてしまった。




「………」

「あ……そ、その、拒絶するつもりでは無いのだ。ただ、二人に抱きつかれるのは、さすがに……」

「……“嫌だ”、と?」

「いや、だから、別の触れ方もあると……」




僕たちの冷えた視線に焦ったのか、クラトスはソファの前に片膝を付いて、自ら僕たちそれぞれの手を取り

「こうして、一部触れ合うだけでも良いものだろう?」と取り繕うように言う。

クラトスの方から手を繋いでくれた。

これは、本来なら、凄く嬉しいことだが。




「なるほど……な」




今は寧ろ、距離を取られたようで、カチンときた。















     distance















「ん……っふ、……」




『じゃあ、一部だけ』と言って、ジューダスはクラトスに深く口付けた。

クラトスは驚いて身を引こうとしたが、ジューダスがそれを許さずに引き寄せれば、抵抗も失せて

時折、鼻にかかった甘い声を漏らすほどになっている。


それを少し面白くなく思うものの、今の内にそっと、部屋の鍵がきちんと掛かっていることを確かめてから

クラトスの背後に回り、カチャリとベルトを外していった。

ジューダスの口付けに意識を奪われている最中だったからだろう、慎重に行えば、クラトスは特に反応せず

下着ごと、下肢を覆う布を腿まで引き下ろして漸く、びくりと大きく体を揺らす。




「なっ……!?」

「僕も、一部だけ」




振り返った戸惑う顔に、敢えて無邪気な笑みを向けて、片手を白い双丘に滑らせた。

数度撫でてやれば、面白いように赤くなる。

他の部分より幾分柔らかな其処の感触を楽しんでから、指を舐めて、奥の窪みへと滑らせると

硬直していたクラトスもさすがに何事か言おうとしたようだが、その前に、ジューダスが遮って。




「あまり大きな声を出すと、外に聞こえてしまうぞ」

「ッ」

「リオンも、触れているのは一部だけなんだろう」

「だ、だがっ……そん、な、所……!」

「何だ? 何処を触られているんだ……?」




顔をくっ付けて、声を潜めながら話す。

ジューダスの方は随分と楽しそうなのが声からも分かって、悪趣味な奴だと内心で悪態を吐いた。


ここからではクラトスの顔が見えなくて、それだけは残念だが

指先で触れている後ろの口は、入口ばかり弄られるのにもどかしそうな反応を見せていた。

表面を撫でて、気まぐれに指先を沈ませ、広げるように緩く引っ掛ける。

その度、クラトスの其処はひくりと反応するから、自然と口端が持ち上がった。




「ぁ……ッ」

「唇を噛むな。切れてしまうだろう」

「なら、も……止め」

「声。バレないか心配なら、僕が塞いでいてやる」




随分と勝手な理屈で、ジューダスは自分のそれで、再びクラトスの唇を塞いだ。

それに何だか煽られて、負けじと、一気に指を深くまで差し入れる。

「んんっ」とくぐもった声が聞こえたのに気を良くして、次々に指を増やしていった。


クラトスの中は熱く、少々性急な愛撫も、ちゃんと受け止められているようだ。

くちゅ、と時折耳に届く水音は、ジューダスと触れ合っている所からのもので

面白くないとは思うものの、今は一応、こちらにも役立っているらしいと気付く。


ふと見れば、クラトスの中心も、緩く反応し始めていた。

直接触れてあげたら、もっと気持ち良いだろうな、なんて考えながら

でも“一部だけ”と言われたから、とクラトスの所為にして無視をする。

本当は、焦らして、本人の口から強請らせたいのと

一部と言ったくせに、いつの間にか、ジューダスと抱き合うような形で口付けていることへの憂さ晴らしだ。



(繋がることとキスとじゃ、どっちの方が、深く交われるんだろう)



奥に触れているのは僕の方。

この行為は、キスなんかよりずっと深い関係である筈なのに、ジューダス達を見ていると分からなくなる。

らしくもない思考だ、と頭を振った。



(関係ない。どうせ、キスだけでも満足出来ないんだ)



結局は無いもの強請り。

一部だけ、なんて設けられた制限の所為で、つい余計なことまで考えてしまった。

曖昧な嫉妬心にそう結論付けて、指を引き抜き、代わりに準備の出来た自身を宛がう。

少しの逡巡の後、止むを得ないと判断して、両手で引き締まった腰を掴むと

逃がさないよう、しっかりと支えてから、一息に奥へと貫いた。




「ひぁ……ッ…!」




押し入ってきた熱に、クラトスの唇から、堪らず色っぽい声が漏れる。

その反応に、一気に気分が上向いたのを感じた。

相変わらず、ジューダスに縋るような体勢ではあるが、唇はすっかり離れてしまっている。

今、クラトスの意識を奪っているのは僕だ。

そう思うと、ゾクゾクと高揚が走った。




「これも、一部触れ合っているだけ……だな?」




掴んでいた両手を離して、“これ”と腰を押し付けるようにしながら囁く。

意地の悪い問いかけに、クラトスの耳が赤く染まるのが見えた。

きっと、その顔も真っ赤なんだろう。

見えないのが残念で、間近でそれを見ているジューダスにまた少し嫉妬する。


が、ふと、ジューダスが物言いたげな目をしているのに気付いた。

クラトスを抱きしめ、心ゆくまで口付けていたというのに、まだ、何処か、不満そうな――――。



(………ひょっとして、ジューダスもジューダスで、僕に嫉妬しているんだろうか)



澄まして、知ったような顔をしていても、あいつも大概欲張りだから。

ふと過ぎった考えが、如何にも当たっているような気がしてきて

また同じことを考えているのかと思うと、何とも言えない気分になる。(それすら、向こうも同じかもしれないが)





「…二人、とも………」




数秒の沈黙を挟んで、静かに声が届いた。

強引な理屈で及んだのは自覚済みだし、文句だろうかと身構える。

別に大人しく聞いてやるつもりも無かったのだが、深く俯いたクラトスの口から零れたのは。




「お………怒っている、の…だな?」




気まずそうに、確かめるように。

そう言えば発端はそうだったか、と考える程度の、今更過ぎること。

予期しない言葉に目を瞠っていると、反応の遅れた僕たちをどう思ったのか

クラトスは一層身を小さくして、「その……すまなかった」と、早口に言葉を続けた。


「私の言動で傷付けてしまったのなら、謝る」「もう、安易に逃げるような真似はしない」

決して上辺だけでは無いと分かる言葉に、唖然とする。

確かにカチンときた。逃げられて傷付いた。制限のある触れ方なんて、見えない壁を作られたみたいだった。

でも、その不満は今、すぐに、こうして意地の悪い手段へ転じているから

そこまで怒っているだとか、傷付いているだとか、自覚は無かったんだけど。




「……抱き締めても、いいのか?」

「まだ、お前たちが……そうしたいと思ってくれるのならば」




ぽつりと漏れた問いかけへ、少し、照れ臭そうに返った答え。

じわじわと胸に広がる安堵に、今更気付いた。

何だ。僕は思っていた以上に、ショックだったらしい。


込み上げてくる想いに任せて、ジューダスと、前後から挟むようにして、ぎゅう、とクラトスを抱き締める。

息苦しいなんて自覚は無かったのに、全身で触れて漸く、ちゃんと呼吸が出来た気がした。


とくん、とくん、と三つの鼓動が溶け合うのを感じる。

それが、穏やかで、温かくて、愛おしい。




「リオン……ジューダス……」

「ん……?」

「その……もう、怒っては……」

「怒ってない」

「ああ。そんな心配そうな声を出すな」

「そ、そうか」




いつも、わざとかと思うくらい鈍感なのに、どうしてこんな時ばかり鋭いんだろう。

その答えは、「……良かった」と安堵した様子で零された小さな声で、分かったような気がした。

鋭い訳でも何でもない。

きっと、いつだって、不器用なほど大真面目に、向き合ってくれているからだ。




「……なら、今晩はもう、止め」

「「 無い 」」




ピシ。

意図せず重なった声と共に、穏やかな空間が破れる音が聞こえた気がする。


いや。僕たちは、水を差したい訳じゃなくて。

確かに、クラトスの声は、この空間にとても自然に溶け込んでいた。

が、だからと言って、雰囲気に呑まれて見過ごせるような内容かと、そういう話になるからして。




「………え?」

「まだ挿れただけじゃないか」

「僕に至っては、挿れてもいない」

「散々しつこく口付けておいて、まだ盛るのか」

「お前だって、キスしたくて仕方が無いと顔に書いてあるぞ」




硬直しているクラトス越しに、ジューダスと軽く睨み合う。

やはり、考えは同じだったらしい。お前の考えなどどうでもいいのに、心底無駄な勘だ。




「ちょ……ちょっと、待て!」

「どうした?」

「此処は船内だ。これ以上は、また日を改めて、街の宿で」

「鍵なら閉めてある。確認もした」

「そういう話では」

「原因はクラトスが作ったんだ。最後まで責任は取れ」

「それは………だ、だから、謝っただろう! やはり、まだ怒っているのか……?」

「怒ってはいない。今は欲情している」

「ばッ……や、止めないなら、前言撤回して、一切の接触を拒むぞ!」

「……それは、困るな」

「だったら」

「確かに。無理矢理抱くのは本意じゃないんだが」

「なっ……!?」




二人して、“仕方ないな”とばかりに小さく息を吐くと、クラトスは真っ赤な顔で絶句した。

その内、わなわなと震え出して、どうしたのかと首を傾げる僕たちに尚更神経を逆撫でされたらしい。

怒りと羞恥が蓄積されたクラトスが、大きく口を開き、不満を爆発させようとする。

それを寸前で察知したジューダスと二人で、慌ててその口元を手で覆い、「シーッ」と声を潜めた。




「あまり大きな声を出すのは、まずいんじゃなかったか?」

「もし……気が変わったのなら、僕は構わないぞ。

 他の奴にクラトスの声を聞かせるのは癪だが、公認の間柄というのも悪くない」

「〜〜〜〜……ッ!」




前後で挟み込むように身を寄せながら、左右の耳元で囁きかける。

口にしてみると、なかなかの妙案で、僕としては結構乗り気だったんだが

僕たちに口元を覆われたままのクラトスは、無言にも関わらず、全力で拒否したいらしいことが伝わってきた。

そんなに、周囲に知られるのが嫌なのか。

僕には理解し難い感覚だから、なんとなく、また面白くない気分に傾きそうだったんだが




「二人とも……覚えていろ……!」




両手で僕たちの手を掴み、口元の覆いを剥がしたクラトスは

結局、潜めた声でそう言っただけで、それ以上、抵抗する素振りを見せなかったから。


ガクンと再び上機嫌に傾いた心のまま、二人して、苦しいくらいに強くクラトスを抱き締める。

少し面食らった様子を見せたクラトスは、やがて深々と嘆息すると

「やはり、暑い」と、照れ臭そうに呟いた。





………………………………
「半熟ヒロイズム」を運営されております総夜さまから頂きました、ジューダス&リオン×クラトスの小説です!
夏のひどい暑さにも、思わずグッジョブ! と言いたい衝動に駆られてしまうような、とっても素敵なお話でした…!
唐突過ぎるこちらからのリクエストに快く応じて下さり、本当に有難うございました!




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