snow love



寝る前はいつも、神子様がキスをくれる。
一回、二回。
最初は頬に、そして額に。
それから、最後は唇に。

……けど、今日はまだ終わらない。
もう一度頬に、そして首筋に。
耳たぶも吸い上げられて、くすぐったさに首を竦める。

どうしたんだろう。
うっすらと開けた目に、窓の外の景色が映る。
……あ、雪だ。
それで合点が行った。
雪の日の神子様は、なぜだか少し甘えん坊だから。
降り始めたのが朝ならば、羽交い締めにされていつもよりベッドを出るのに時間がかかるし、夜ならばこうして、普段より濃厚なスキンシップを交わすことになる。

そんなときは、自分もなぜか堪らなくこの人が愛しく、そしてどうしたわけか何とも言えずに切なくなって、ただただ、かき抱くようにその背を抱きしめる。
きっと傍から見たら、縋り付いているようにしか見えないだろうけど。

……ああ、この人を、余すところなく包み込めるくらい、大きかったらよかったのに。

少し以前、そう言ったら、神子様は驚いたような顔をした後、困ったように微笑んだ。
そして、今だって十分だ、と言ってくれた。

頬に、瞼に繰り返されるキスは、静かに降る雪のようだ。
そうして、積もってゆく愛情もまた。
雪のようだと例えれば、それは何だか冷たい印象のようだけれど、実は積もり積もった雪の中は、思ったよりずっと温かいのだと、いつか話してみよう。
そして、そんなに温かい愛を降らせることができるのはどうしてなのか。
そう尋ねたら、この人はどんな顔をするだろうか。

*******


窓の外は雪。
しんしんと音もなく降るそれは、辺り一面を白く染めている。

ふと、隣に眠るクラトスを見る。小さな剥き出しの肩は冷えていて、そういえば夜着を着せかける間もなく眠りにつかせてしまったのだ、と思い当たる。
その肩に毛布をかけながら、ずっと昔、母親がこうしてくれたことを思い出した。

別れがあんな形だったから、ずっと長いこと忘れていたが、今思い返せば、愛情深いひとだったと思う。
少なくとも最後の言葉が、長年衝撃として残る程には。

いつだったか、その話をしたら、クラトスは言った。
『……もう傍にいてやることが適わないと自覚して、自分に余計な未練が残らぬよう、敢えてそう言ったのかもしれないな。少なくとも、おまえを心底疎んでなどいなかっただろう。愛しい者でなければ、庇って亡くなったりなどしないのだから。』

だが、もしそうなら、なおさら思う。
俺がいなかったら、あの人が死ぬことはなかったんじゃないか、と。
彼女の言葉に傷ついたのは、それが真実だったからだ。

自分がいなければ。
神子などで無ければ。

……だが、もうそれも過ぎたことだ。
今、自分にできるのは、目の前の大切なものを守ること。
小さく寝息を立てる身体を抱き寄せて、ベッドに潜り込んだ。
起こさないよう気をつけながら額にキスをする。
すると、彼はどんな夢を見ているのか、幸せそうに笑った。

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こちらがちょっとしたことで入院という話になってしまった時に、Basic Lifeのnanaさんから頂きました。
とても心の温まる、素敵なお話です。はじめての入院にびくびくしていた背中を押してくれました…!

お忙しいその中でのお気遣い、本当にありがとうございました!
今回のことを糧にして、頑張っていきます。




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