寝ても、覚めても



「天使サマ。起きろよ、朝だぜ?」
ベッドから手を伸ばし、重たいカーテンを開けると、溢れんばかりの光が部屋を満たした。
その光に、隣に眠る彼は、目を瞑ったまま眩しそうに顔をしかめる。

「あーあ、なんだよ、この髪。」
俺は、笑いながらクラトスの髪を指で梳いた。
気まぐれに、あちこちを向いて跳ねているくせっ毛。
滑らかな手触りのそれを、そっと撫で付けてやっていると、天使はうっすらと目を開けた。

「ん……、ゼロス……?」
「おっ、起きたか?―――おはよ。」

ちゅ、と額に口づけると、クラトスはまだ眠そうに、緩く二、三度瞬きをした。
長い睫毛が、頬に当たってくすぐったい。
その気だるい様子を、可愛いと思いながらも、俺は心の中で少しばかり反省した。

昨夜は、大分無理をさせてしまった。
目のフチが、赤く腫れている。
いっぱい泣いたもんな。
あられもない、だがこの上なく艶めかしい姿を思い出して、赤くなる。
そして、アンタが可愛すぎるからいけないんだ、なんて文句を言ってみたりする。

クラトスはそんな俺の気持ちなど知る由もなく、まだ眠たげに、俺の腕の中であくびを噛み殺していた。
だが、ものの数分もしないうちに、再びゆるゆると閉じられる瞼。

「あ、コラ! 二度寝すんなって!」
「ん……。あと、10分……。」
「もー……。今日は、ちゃんと朝飯に来いって言われただろ?」

俺は昨日のリフィル先生の小言を思い出す。
『あなたたちが一緒の部屋だと、いつまでたっても起きてこないのだから。』
部屋割りが決まった途端、彼女は呆れたようにそう言って、ため息をついた。
その言葉に、大丈夫だって、とタンカを切った以上、ちゃんと時間通りに馳せ参じたい。
どうせ、遅れただの、天使に無理を強いただのと言って、怒られるのは俺なんだから。


だが、穏やかな顔で眠る彼を見ていると、それでもいいか、なんて思えてしまう。

いつからか、こんな姿も見せてくれるようになった。
過去や普段がアレだけに、その無防備さが、殊更に愛しい。

「まったく。……じゃ、あと少しだからな。」
「………ん。」

言いながら、やっぱ勝てねぇや、と苦笑する。
なぜって、その「あと少し」を、誰よりも残念に思っているのは、ほかでもない俺なのだから。
できるなら、いつまでもこの寝顔を見つめていたい。

俺だけの。
大切な。
かけがえのない。

そして、ふと、幸せとか、愛だとか呼ばれるものは、あったとしても目に見えない、と思っていたけど、そうでもない、と思い直した。

それにはちゃんと形がある。触れることだって出来る。
ほら、こんな風に。

俺はすやすやと寝息を立てる彼の髪を、もう一度、手のひらで包み込むように撫でた。
それは柔らかで、艶やかで、撫でているこちらが、撫でられているような心地になった。

愛してる。
しなやかで、でもちょっと撥ねっ返りの、大好きな、俺の天使。
今あんたとここに、こうしている喜びを伝えたい。この指先から。





そんなことをしていた俺たちは、結局また遅刻して、「ほら、ごらんなさい」なんてお小言交じりに冷やかされたのだけれど。

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Basic Lifeのnanaさまから、相互記念にと頂きました。
ゼロクラの幸せっぷりに何度読み返してもにやりとしすぎて頬が落ちそうになります。癒されます。
本当にありがとうございました…!






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