LKホワイトデー



思い出せる範囲で名前を挙げるなら、ルカとかイリアとか…カイウスとルビアとか、エミルとマルタとか。
俺と同い年ぐらいの一部のペアは、互いにどこか余所余所しかった。
最初にそれを見たときは喧嘩でもしたのかなー、としか考えていなかったけれど、…今なら分かる。
今日は、ホワイトデーなんだ。バレンタインのときのお返しをする日。
……緊張していたんだと。

俺だってそれを他人事みたいには言えない。自分でも驚くほどにそわそわして、全然落ち着けなくて。
何をお返ししようか、それさえなかなか決まらなかった。それをようやく決めることのできた今も、これでいいのかどうか。…自信ない。
そういうのに色々な意味で慣れているっぽい友人は「ものより気持ちを伝えることが大事なのよー」なんて言っていたけれど。
ものより気持ち…も、十分難しい。
「伝わればいいんだけど……」
ぼんやりしながら呟いたひとり言を掻き消すような自動扉の音。驚きに、机にふしていた両肩が跳ね上がる。
慌てて振り向くと、焦茶色の瞳とぴったり目が合った。
「……ロイド?」
怪訝そうな顔をするクラトスに言葉がでてこない。焦っている、と、自覚できた。
落ち着こう。自分に言い聞かせる。上手くいくかわかんない…けれど、おどおどしててもどうにもならないし。
立ち上がって、首を傾げているクラトスに向き合う。緊張に俯きそうになるのを、どうにかして堪えて。
「クラトス! えっと…その、」
出来るかぎり分かりやすいような言葉を選ぶ。
この人は、ヘンなところで鈍いから。
「何か…やりたいこととか、ほしいものとか、ないか? 俺にできることならなんでもする」
「………?」
どうにかして口に出来た言葉に、そいつは考え込むかのようにそうっと目を伏した。
やがて静かに開かれた瞳には疑問の色が濃く表れていて。
…ああ、やっぱり、ちょっと分かりづらかったよなあと。ひそかに苦笑いを浮かばせた。
「あんたさ、ほら。この間、チョコレート作ってくれただろ?」
「……ああ…そんなときもあったな」
「今日はそのお返し」
説明しながら、立ち竦んだままのクラトスに近寄った。吹っ切れたのかなんなのか、緊張なんてもう少しもない。
今日がホワイトデーだってことすら、クラトスは忘れているんだろう。
こういうことには関心を示さないみたいだから。
「最初は物で返そうと思ってたんだけどさ。あんた、甘いものあんまり食べないみたいだし、ヘンに要らないもの貰っても意味ないだろ?」
だから今日は、あんたのやりたいこととかにとことん付き合ってやる。
お返しのためのものなのに、なんだか偉そうな言い方になったことに少し後悔したけど。
「…そうか…」
ようやく納得いった、という様子のクラトスが、思わず目を見張るくらいに穏やかな顔をするから。
(少しは伝わった…のかな)
あんたが好きで仕方がないってことが、少しでも。


そこに置いてある本を取ってきてくれ、と言って、クラトスは自分の使っているベッドの上に腰をかけた。
言われた通り、机の上にぽんと置いてあった本を手に取る。それをクラトスに渡しながら、分厚くて、とても難しそうな本だなと思った。
…もしやこのタイミングで読むのか。なんて、ちょっと不満を感じてしまった俺を目に、クラトスは清潔なベッドのシーツをぽんっと叩いた。
その位置はクラトスが座っている箇所のすぐ隣で、…座れってことなのかな、と。解釈して腰かけてみる。
じっと俺を見ているクラトスが、ひどく満足気な表情をした。
「ジーニアスもゼロスも、暫くは戻ってこないと聞いた」
「…ん?」
「なんでもしてくれるのだろう? …暫く、ここでこうしていてはくれないか」
気恥ずかしいのか、目を逸らしながらぽそりと言う。
そんな様子にどきりとした。
「あんたさ、」
「……?」
(かわいすぎるだろ)




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