上手くいかない



いつもいつも、人の都合などお構い無しに依頼に強制参加させるディセンダーが、その気まぐれ加減で選んだ人物は二人。
一人はこの俺。…でなきゃ此処でこうして、やたら上機嫌な少女の後ろを歩いたりなんざしていない。
そしてもう一人は。
「…ディセンダー。道が違うぞ」
「あれ? そうだっけ。…えーっと…ここどこらへんだっけ?」
やたらさくさく進んでく彼女に声を掛けた男。―――クラトス・アウリオン。
立ち止まり、振り向きながらこてんと首を傾げた彼女に、そいつは呆れ果てたような表情を見せた。

今日は休日だ。俺にとっては。ダレてさぼることも多いその中での正式な休日ってのは、なかなかに貴重なものであって。
それだから何処にも行く予定などなかった。散歩に行くが一緒にどうか、というお姫さまの誘いにすら渋り、フレンも同行することを知ってようやく清々しい気持ちで首を横に振れたというのに。
俺を見つけるなり「行くよ!」とため息が出るほどの満面笑顔で言ったディセンダーのその言葉にだってすぐさま断りを入れようとしたのだが
彼女の、背後。随分と離れた場所でこちらを見ていたそいつの存在に気付いてしまったことで、俺の休日はあっけなく潰えた。
とある一件以来ずっと気になっていて、見かければつい姿を目で追ってしまうその存在。
ロクに顔を合わせることも無い。…からこそ、良い機会かも、と思ったのだ。
どうしてこんなにこいつのことが気になるのか。その理由に見当さえつかないほど、自分は鈍感なわけじゃなく。
だけど。
「どっち行ったらいいんだっけ? みぎ?」
「逆だ」
「ぎゃく? みなみ?」
思いっきり間違えている(というか、これはもう覚える気が無いとみた)ディセンダーと、生真面目にそれの相手をするクラトスを、数歩後ろで眺めつつ。
ひたすらに黙り込んでいた。


声を掛ける。日常生活において当たり前のことが、時にこんなにも難しくなるのか。
それすらろくに出来ぬままに依頼は終わり、帰路へとつく。
焦る、その一方だった。いい機会だと思ったのに、これじゃなんの意味も無い。
落ち着け俺。と自分に言い聞かせる。会話を交わしたことはあまりないが、全くというわけじゃない。こんなテンパらなくても、会話ぐらい普通に成立するはずだ。
「クラ、」
「ねえねえ皆、私近くの町に寄っていきたいの。先に帰っててくれる?」
思い切って掛けようとした声が、無残にも掻き消される。
いいタイミングだな、おい。………わざとか。喧嘩売ってんのか。
思わず睨みつけてしまった俺の胸の内など知りもしねえくせに、彼女は「報告よろしくね、ごめんね」なんて言って明るく笑った。

途中、ディセンダーは町へ寄るという自分の宣言通りに船にある方向とはまた別の方へと歩いていった。
計らずも、二人きり。互いに無言でいるということが、何だか重い。
「…こうやって一緒に戦闘すんの、久しぶりだな」
「そうだな」
「………」
話しかけてみても、その先が続かない。バカみてえに緊張してるらしい自分が、いっそ憎い。
船は、もう目前だ。
「ユーリ」
「…何だ?」
「報告は私がしておこう。ゆっくり休め」
名を呼ばれたと思ったら、それで。物凄く微妙な気分になったけれど
次の瞬間の表情と、声色に。言葉を失った。
「―――顔色が悪い。無理だけはするなよ」
気遣うような声。やさしい色を出す、表情。ああ…と曖昧に返事をしながら、内心で零す。
ああ、やっぱり今日も進展はナシ。




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