シンプル・ドリームと四千α



(かっこいいユアンが行方不明ですみません)


ひざまくら。とは随分と夢の詰まった存在である。
文字通り他人の膝(というか太ももあたり)を枕に見立て、そこに頭を乗っける行為だ。
健全に育った男子であれば一度くらいきれいなお姉さんの膝枕、はたまた気になるあの子のお膝の上。という願望を抱くのではなかろうか。
そしてそれにプラスやさしく耳掻き…というシチュエーションもある。シンプルながらに堪らんものだ。
「というわけでクラトス、私に膝枕」
「断る」
腕を組みながら、どやあ…と笑ったユアンを、至極どうでもよさそうな声が遮った。

いやせめて最後まで言わせろよ。断るの早すぎるんじゃね。
それは四千+α、いい歳した大人…さえ超えた存在であるはずの男の久方ぶりの涙である。
テセアラベースのユアンの自室、そこで床に正座しながらさめざめする部屋の主を、訪問者であるクラトスは泣くほどのものなのか…と呆れたように見ている。
元から何処か、…なんていうかこう…よく分からないと感じるところはあったのだが。
「なんだお前っその可哀想なものを見るような目つきは…! とうとう此処まで来てしまったか…とかそんなことを考えているのか…!?」
「……いや…」
指摘されて咄嗟に視線を逸らしたが、反論はできない。図星だった。
というかその発想はどこから来た。自覚があるのか。
クラトスが自分から目を逸らしたことにまた文句を言い出すユアンの声を右から左へ受け流しつつ、面倒臭いことになったとため息をつく。
「仕方が無いな…」
膝の上に置いていた本をぱたりと閉めて、ソファから立ち上がる。
薄っすら涙の溜まった両目をぱちくりと瞬かせたユアンを呼び、クラトスは、自分が今しがた使っていたソファに座るよう命じた。
「………?」
首を傾げながら、それでも言われたとおりに行動するユアンに何とも言えぬ気分になる。
ソファへ向かうその背が、最早大きいだけの子供にしか見えない。
「座ったぞ。…どうするんだ」
「………」
ぴんと伸ばされた背筋、きっちり揃えられた両足に両の手は膝の上。
行儀よく座ることのできる子供………いや、考えるのは止しておこう。
ため息を零しながら近寄るクラトスに、ユアンの心拍数は密かに上がる。
仕方が無いと呟いていたのは聞こえた。(一応)恋人同士らしき関係でありながら、それらしいことは何一つできていない(これは大体緊張のあまり空回りするユアンのせいである)私達にも、ついに甘いムードが!
やはり感情はしっかり表に出すべきだな、などと思考が完全に別方向へ行っているユアンの太もも付近に、なにかが乗っかってくる感覚。
「ん……?」
我に返り、視線を下に向けると、膝の上に置いていた両腕は何時の間にやら退かされていて。
「やはり寝心地が悪いな……」
代わりにそこには、当然のように失礼な文句を口にする愛しい恋人の顔。

「いや…お前これは違うだろう」
「何がだ? 膝枕がしたかったのだろう?」
「膝枕をされたかったのだ…! 何故私がする側に回らねばならない!」
「うるさい、そこで喚くな。頭が痛くなる」
甘いムードってなんだっけ。そんなものが本当にあるのかすら怪しくなってくる。
だが納得いかん! と憤るユアンを他所に、クラトスは何処までも落ち着かない様子でしきりに頭の位置を調整している。
思い返せば、膝枕などしたこともされたことも(確か)なかったと思う……が、…良いような悪いような。微妙な心境だ。
今は上で文句を言っているのが鬱陶しいが、他人の体温を感じる、という点では確かに心地よい。
だがしかし、自分の頭との位置が合わなければ、こちらから合わせなければならないというところはとても不便だ。
……まあ…悪くは無い。決して。結局そんな結論に至った。
「おい、無視をするな…! 次は私の番だ。今すぐにそこを代わ…」
「…ん……」
「………」
曖昧な返事にユアンの声がぴたりと止まる。よくよく見ると、膝の上で仰向けのクラトスは、長い前髪のせいで見えづらいその目を眠たげにうとうとさせている。
寝心地が悪いなどと文句を言っていたわりに、これか。よく分からん…と内心で愚痴を零しつつ、ユアンは左手でそっとクラトスの髪に触れる。
顔にかかっている邪魔そうな前髪を退けてやって、彼の寝顔を見つめた。
「起きたら代わってもらうぞ……」
呟きながらそれでも、起きるまでは好きにさせてやろうと思う。
四千と+α、長い年月を共に重ねていようとも、ユアンは変わらずクラトスに甘い。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -