なんやかんやで



二人はとても仲が良い。裏切り、裏切られ、やがて衝撃的な真実が明るみに曝されても尚、それすら乗り越え―――今に至る。
同性だ、という点も、そもそも血が繋がっているのだ、という事まで受け入れた彼らは、やっと出逢うことの出来た親子であると共に紛れもなく恋人同士なのである。

最近になってパーティに戻ってきたクラトスは、自らの体内のマナを放射するという無茶を強行したせいなのか、体調を崩しがちだ。それを懸命に覆い隠し、戦闘に参加していることが多い。
誰もが―――何かと鋭いあのリフィルでさえ騙し通せてしまうほど、彼の"やせ我慢"はある意味完璧に近い。のだが。
「…よっし! なあ皆、ここらへんで一休みしようぜ」
俺、疲れちまった。そう言って笑い、もう疲れたの? と呆れた声を出す親友の言葉に「疲れたものはしょうがないだろ」とふて腐れた少年は、皆が気付けぬその中で唯一、彼の完璧さを打ち崩す存在だった。

巨大な樹木、強固な枝とそれから生える幾数もの葉が暑い陽射しを遮る。その下、影の中で、二人は樹にもたれかかるようにして座していた。
休憩を提案し、皆がそれぞれで自由行動をし始めた頃を見計らい、ロイドはそうっとクラトスの手を引いて歩き出した。そうして此の場を見つけたのである。
不思議そうな、それでいて何処か不安げな表情をしてロイドを見るクラトスの、その顔色は悪い。とは言っても、それはロイドにしか分からない、ごく僅かな変化でしかなかった。
彼のまとう雰囲気からなんとなくと察するのは、"今日のこいつは無自覚かもしれない"ということ。
自己に対して疎かな部分が目立つクラトスには稀にそういうことがある。自らの体調が優れない事、それを自覚しても隠そうとしてしまうのだが、自覚の無い時すらあるのだ。
所詮はその程度だ、大したことはない、と、クラトス自身はそう言うかもしれない。しかしロイドにとってこれ以上に性質が悪いものもあまり無かった。
わざと隠そうとしているなら怒ることも出来る。ただ無自覚だというなら、其処に悪意すらないのだ。
「……今日はいい天気だよな」
「ああ……」
顔色が悪いことを指摘するべきかしないべきか迷った挙句、結局のところロイドはお約束的な話題を振っただけで、それを口にしようとはしなかった。
気付かせてしまうことによって、余計と具合を悪くさせてしまうこともある。それを経験上から知っている。その代わりに此処でたっぷりと休んでもらうつもりだ。
(こいつ……こんなに危なっかしかったっけ)
初めて会った時から既に、随分と完璧そうな男だという印象を抱いていた。あまりに無愛想で辛口で、そのあたりが損だろうとも思ったが、それ以外は抱いた印象その通りだった。知識も魔術も、…剣の腕も。だれにも引けを取りはしない。
今でもそれら自体は変わっていないが、……ただ。共に世界再生の旅に同行していた当時のロイドには気付けなかったけれど、彼は自分自身に対して、ひどく無頓着なのだ。
放っておけばいずれは倒れてしまうかもしれない。
(…さすがにそこまではないか?)
何時だかクラトスに体調管理も重要なのだと諭されたことがあった。本当に限界にまで達すれば、さすがの彼でもそれを重く受け止め、自ら休もうと考えるかもしれない。
まあ何にしろ、放ってなどおけないからこうしているのだ。ロイドは其処で思考を打ち切り、音もなくクラトスへ両腕を伸ばした。そうっとその頬に触れ、徐々に顔を近づける。
ロイド、此処は屋外だ、そう声を潜めさせて焦るクラトスに、みんな自由時間だから大丈夫だと、大して根拠もない言い訳を述べた。何だかんだでクラトスもロイドにはひどく甘い。雰囲気に流されるがまま、瞼を閉じてしまう。
くすりと笑って、ロイドはクラトスに口付けた。触れてすぐさま離れていくだけのもの。それを物足りないと感じるのは、意外にもロイドだけではないようで。
「…もっかい、いい?」
「………ああ」
問い掛けへの、ちいさなちいさな答え。見ればその頬はほんのりと赤い。
体調は良くなったのだろうか。……すこしでも。せめて自分の、有り余っているほどだと自負できる元気を、どうにかして分け与えられたらいいのに。そんなことを考えながら、ロイドは再びその唇へ口付けを落とした。


「ロイドとクラトスさん、とっても仲がいいねえ! ひそひそ話でもしてるのかな〜?」
「や、それは無いでしょーよ……っつうかアレで周りが気付いてないと思ってんのかねえ」
いやいや気付いてないと思っているのは天使サマだけか。あれはあれで意外とニブいみたいだから。ロイド君は絶対にワザとだろあれ。
完璧に二人だけの世界を展開している彼らを遠目で眺め、ゼロスは頭を抱えてしまいたくなるのをどうにか堪える。
目の前でほわほわと微笑ましそうにしている少女には、今見たことは誰にも言わないようにと言い聞かせるだけでいい。だが、恐らくもう少しで戻ってくるであろう他の仲間たちをどうやって足止めすればいいんだろうか。
ごく自然とその発想にまで至るテセアラの神子は、意外と友人想いである……と同時に、紛れもなく苦労人だった。

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ナチュラルに九人パーティ! そして甘々を目指しました。
リクエストをしてくださったお方に捧げさせていただきます!





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