さまざまな、その形



危なっかしく感じてしまうほどに思い切りが良く、物事をあまり深くまで考えないような、向こう見ずな場面があるように思う。しかしそれは傍から見てそうであるだけで…実際には常に、色々なことを考えているらしい、のだと。それを、少しずつ、それでいて確かに、知った。
何をどう考えているのか、想像すらつかないという時もよくある。子どもとは、それぞれで多少の違いはあるにせよ―――こういうもの、なのだろうか。
イセリアの森、その奥地。ひっそりと佇むかのような家の中、二階の部屋で、開け放されたままのベランダ付近の椅子に座し、外を眺めているらしいロイドを、これまた眺める。
一人旅から久方ぶりに此処へと戻ってきた彼は、はじめから少々様子がおかしかった。不機嫌でいる…というわけではない。話していても、話しかけても、時折ふと遠い目をするような気がするのだ。
ダイクはそれを、疲れているんだろうと言う。それに納得はした。のだが。
「………」
話しかければ当然のように反応をしてくれる。そうと分かっていて尚、話しかけることが出来ずにいた。自分は何が出来るだろう。そう考え始めてしまったのが、いっそ悪かったのか。彼へ向けようとする自分の言葉のすべてが、随分と無意味なもののように思えてしまって。
「……ロイ、」
「なあ」
それでも、いつまでもこうして無言でいるというのも気が引けてしまう。とりあえず何か…と、その名を呼ぼうとした最中、まるでそれを図りでもしたかのよう
に彼の声と重なってしまった。
互いに顔を見合わせ、押し黙る。何故だか、妙なほどに気恥ずかしいものがある。ふと伺い見れば、ぴたりと固まるロイドも、その頬を仄かに赤くしているような、…そんな気が。
「……なんだよ?」
「いや…おまえの話から、聞こう」
そうした答えに彼は"ずるい"と言ったが、私には話の種になるようなものは無いのだ。未だに考え付かない。なのだから、ロイドの言葉を先ず聞きたかった。さすれば何と言葉を掛ければ良いかも思いつくかもしれぬ。この考えはやはり"ずるい"のだろう。
「…いやさ。少し前から、ずっと考えていることがあるんだよ」
少しばかり下がる声色。何処か思い詰めているような、そんな表情をした。何か、あったのか。不安に駆られるのと同時に、自然と意識が彼だけへと向いた。
ロイドが言葉を続けようとする。息を呑み込んだ。
「アンタはさ…その…どんな事に、幸せだって感じたりする?」
「……?」
想像していた内容のものとは遥かに違っている問い掛けに、思わず首を傾げてしまった。真剣な眼差しを向けられ、それに思わず困惑してしまいつつ、答を探し求める。
幸せだと、感じる事。意識して考えたことはあまりないような気がする。………。
「そうだな…。……おまえは、今は順調なのか?」
「へ? …うん…まあ」
「嬉しいと、充実していると、おまえが少しでも思える時があるのなら。それは私にとって幸せだと感じられる事だ」
不得要領だと言われてしまうだろうか。然し、どんなに考えても、私はこの考えにたどり着く。紛れもない本心なのだ、と、胸を張ることがきっと出来る。
「…はあ…アンタって、ほんとに」
ちいさく息を吐いたロイドが、がたりと椅子から立ち上がった。やはり、答えになっていないと、否定されてしまうか。そう眉根を寄せてしまった私を他所にして。
「予想外のことをさらりと言ってくれるよな」
隣へと腰掛けながら、呆れたように…それでいてやんわりと笑んだ。

何故そのようなことを考えていたのか。ロイドはそれを、「ひとりで旅に出ているから」と説明する。
「親子で、恋人で…毎日を一緒に過ごすのが当たり前だろ? あ…旅してることは俺の意思でだからな。後悔してないし、アンタのせいだなんてちょっとも思わない」
「………」
「だけど、たまにしか会えないだろ。だから、こうやって会える時くらい、何かしようって思ってたんだけど」
"予想外だった"。そう笑うロイドを、微妙な気分なままで見つめる。そもそも、彼が旅をすることとなった原因は私にあるのだ。それを彼は気にしていないと言ったが…結果的に、その事自体が彼を悩ませているのだから居た堪れない。今の私の心境を彼が知れば、また考え過ぎなのだとでも叱られてしまいそうだが。
それにしてもーーー何となく様子が違っているように感じてはいたが、まさかこんな事を考えていたのだとは。原因は紛れもなく私であるが、それでも、私なぞにこうも真剣になってくれているのだ。それは、とても嬉しい。
それだけで十分だ。
「私の意見は、先の通りだ。そうだな…加えて、おまえが健康でいて…時にこうして顔を出してくれるのなら、なお良い。ダイクもそれを望んでいるだろう」
それに、ロイドは納得をしてくれたようだ。うん、と頷き、分かったと満面の笑みを浮かばせてくれる。眩しいと思えてしまうほどの明るい表情に、ただ安堵した。私には十分過ぎる。十二分に、幸せだ。




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