ふいと逸らす



珍しいな。そう思って、そればかりをじいっと眺めていた。
あたたかな日差しが降り注ぐテーブルの上、肘をついて、向こう側で揺れる鳶色を目で追いかける。
眠たいほどに穏やかな昼過ぎ。
「ん…えーっと、ここは…」
「おーなんだガキンチョ、ンな簡単なとこで詰まるわけ?」
「…そういうことを言うのは止せ。ジーニアス、それは―――」
向こう側のテーブルに座るのは三人。
ゼロスとジーニアスはそれぞれ何だかよく分からない教科書を手元に広げていて、並んで座る二人の向かい側にいるクラトスはジーニアスの教科書を覗き込み、なにやら話している。
細長い指先が本の頁をなぞっているのがこっちからでも見て取れた。クラトスが何を言っているのかはよく理解できないけれど、落ち着いたその声はひどくやわらかい。
いっつも小難しそうな顔をして、楽しげな仲間たちの輪からも一歩引いているあいつだからこそ、ひどく珍しいと思った。
時折、ジーニアスの方へと視線を戻しているらしいクラトスの横顔は、髪のせいでよく見えないけれど―――その雰囲気や声色だけでよく分かる。
今、クラトスは笑っているんだろうなあと。

やることもないし、つまらないし、退屈過ぎて死にそうだ。
だけれど、わざわざあの中に入り込む気にだけはなれなかった。出された宿題を持ってきて、一緒に見てくれと言うだけで十分なのに、…それだけのことがどうにも出来ずにいる。
……やきもちなんだろうか。ふっとそんなことを思った。よくわからないけれど、しっくり来るような、…そんな気もした。
ふわり、と何処からかやわらかな風が吹き抜けていく。凝視していた教科書からふと視線を離したジーニアスが、俺の存在に気付いたらしくて「あ」とちいさく声を上げた。
其れを目にしたクラトスも、つられたようにこっちを見る。
「あ……」
ぴったりと、目が合って。少しの間、時間が止まったような気さえした。きれいな鳶色の目にどきりとする。
これまで感じたこともなかった、なんて呼ぶのかもよく分からない、感情。それだけで胸がいっぱいになる。
ただただきれいでかわいいと思った。

止まった時間が、急に動くのを思い出したように。クラトスの視線が、俺からふいっと外される。
ジーニアスやゼロスが俺を呼んで何か言っていることには気付けたけれど、それどころじゃなくてなにも返せずにいた。
長い髪の間からちらりと見える陽に焼けていないそいつの肌が、ほんのりと赤いことに気付いて
……こっちまで気恥ずかしくなっていくのを、ぼんやりと感じていた。

「…ふたりして何やってるのさ」
「ガキンチョにはまだちょっと分からない世界かもなあ」




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