Thanks Clap! (10/15〜)
苛々していた。それももの凄く。
決して上質とは言えない椅子に深く腰掛け足を組み、長い指先を組んである一点を実にふてぶてしく眺めていた彼は、遠回しな表現もオブラートに包むといった気遣いも一切なしに、うぜェと一言吐き捨てた。
七武海の召集、それ自体はさして珍しいことでもなかったが、その広間に七武海のうちほぼ全員、ハンコックを覗いた六名が一堂に会するなどということは実に奇妙な光景だった。
顔を見るだけでも面白くない連中とのくだらない会議、それくらいなら彼とて紳士の端くれである、特に自らの目的のためともあれば、凛とした大人の余裕ある対応をとっただろう。
しかし問題は定刻になっても議会の中心人物である死に損ない共が一向に姿を現さないことであり、暇を持て余した自らの部下がどこから引っ張り出してきたのか長い長い丈のローブを纏って、よりにもよって顔を見るだけで舌打ちしたくなるフラミンゴ野郎の元へ行って腕を突き出し笑い、
「トリック・オア・トリート!」
と高らかに叫んだことにあった。
そのピンクの塊はフッフッフ、と楽しげに笑いながら毛玉の中へその指先を突っ込み、ポケットでもあるのか、とにかくやはりその毛玉の中からピンク色の飴玉を取り出して「ほらよ」と部下の手に落としてやった。
「フッフッフ、子供ってのは怖いねェ、鰐野郎」
「何が言いてェ」
ご機嫌に肩を揺らしながら、ずずずー、と椅子を引きずって寄ってきた鳥頭にまた苛々とする。
ドフラミンゴは机に肘を突きその手に頭を乗せ、別にィ?などとほざきながらニヤリとした笑みを乗せて彼を見た。
とてもじゃないが理解できないセンスの毛玉と香水とに眩暈を通り越して吐き気すら感じ、彼は視線を逃がすように部下の様子を眺めやった。
部下の関心は今度はゲッコー・モリアの元へと向いており、フラミンゴ同様に菓子を要求された耳障りな笑い声の男は思案げに視線を彷徨わせた後、ズボンのポケットに手を突っ込んで棒つきキャンディなるものを取り出した。
受け取った彼女は実に嬉しそうに笑ってまた机を回り、今度はジンベエの元へと走っていった。お前らなんでそろいもそろって菓子なんざ持ち合わせてるんだ。
「フフフ、なァ鰐、無邪気さってのは全く末恐ろしい武器だぜ。あんなに強く底知れねェモンを、おれらはどこに置き忘れてきたんだろうなァ」
「何アホ抜かしてやがる。てめェが無邪気であって、一体誰が得するってんだ」
想像するだに気色が悪ィ、と口元を歪めれば、実に全くその通り、とドフラミンゴは両腕を広げ、我が意を得たりとばかりに笑ってみせた。
「おれが無邪気なら気色が悪ィし得もしねェ、つまり例外もあるってこった」
「あァ?」
「お前が今、そう言ったんだぜ。まさかもう忘れたってのか」
そろそろ心配した方がいいんじゃねェのか、とドフラミンゴは肩を揺らした。
ジンベエからクッキーをもらった彼女はまた嬉しそうにそれを握りしめ(湿気てねェといいがな)、今度はバーソロミュー・くまの元へと駆け寄っていった。
旅行するならどこへ行きたい。ハロウィンですよバーソロミュー、どこへでも。なるほど、的を射ている。わけわからんですよ、バーソロミュー。
「……なに馬鹿やってんだ、あいつは」
「フッフッフ、楽しそうで結構なことじゃねェか」
サングラスの奥に隠された真意の知れぬ目を一瞥、ふん、とクロコダイルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「心配なんざ誰がするか」
「あっという間だぜ、人間の成長なんてのは」
「……てめェ、何か下種な勘ぐりをしているんじゃねェだろうな」
あのガキがどうなったところで、おれの知ったこっちゃねェ。
ぎろりと睨みつけ葉巻の煙と共に吐き捨てたところで、ドフラミンゴのくつくつ笑いが大きくなった。
何がそんなに愉快かとクロコダイルは面倒そうに眉を顰める。
「フッフッフ、下種な想像してやがんなァどっちだろうなァ」
「何だって?」
「おれが言ってんのはてめェのアタマの話だぜ、ロリ鰐野郎」
ドフラミンゴの長い長い指先がぴしりと彼の頭、前髪、殊に生え際の辺りを指さした。
一連のやりとりの意味を理解したクロコダイルの額にびしりと青筋が浮かぶ、しかし言い返すに言い返せず彼は葉巻をへし折ると砂へ帰し、苛立った様子で席を立った。
てっきり怒鳴るか殴るかしてくると思った彼が何もしてこなかったので「お?」とドフラミンゴは足を組み頬杖を突いたその姿勢のまま、首を巡らせてクロコダイルの背中を追った。
クロコダイルはミホークと押し問答をしていた少女の首根っこを掴んで「いつまで遊んでやがる」とドスの利いた低い声で睨め付けた。
「こんなところにいても時間の無駄だ、帰るぞ。不愉快だ」
「ええええ、だって、会議は?」
「これだけ頭数揃ってりゃジジイ共に文句はねェだろう。必要な案件なんざあるわけもねェが、文面にでも纏めて寄越させりゃァ十二分に事足りる話だ」
舌打ちを残し部下を引きずって踵を返しかけたクロコダイルの足がややつんのめって立ち止まった。
苛、としながら振り返ると部下の長い長いローブの裾を掴む指があった。
彼の眉がこの上なく不機嫌に寄せられ、全く考えの読めないそれでいて強い目を睨み下ろす。
「……何の真似だ、ジュラキュール・ミホーク」