06
二人して抱き合ったまま眠った。キスは一度だけだった。起きる頃にはきっと死んでいるか、氷河期が忍び寄っている頃だろう。二人で凍りついたまま死んでしまってもよかった。
目が覚めてまず目に飛び込んできたのは朝日に照らされる柳生くんだった。キスしてからずっと眼鏡を外したままにしていたらしく、睫毛に光が止まっている。思わず愛おしさから微笑んで、髪にふれてみたが、よくよく考えるとそれはどうもおかしいほど普通の日の始まりだった。
「あれ?」
「……ん、どうされました?」
「あれ?隕石は?どこか地球の裏側にでも落ちたのかな?日本は無事なのかな?」
「落ち着いてください」
寝起きの掠れ声で、柳生くんが眼鏡をかける。ポケットに入れていた携帯電話を取り出して、何かボタンを押していた。どうやらラジオを聞く気らしい。
すると、やけに焦っているニュースキャスターの声が耳に飛び込んで来た。
「……メリカ宇宙開発機構によりますと、地球に衝突するはずだった隕石は何らかの形で到達前に粉々になり、大気圏に突入する際に燃え尽きてしまったとのことです! このことで隕石を構成する物質自体が、そもそも熱に弱い物質であり、つまり氷の粒のようなものであったと考え、調査をしております!
終末は、回避されました!」
私達は顔を見合わせる。柳生くんは意外と涼しい顔をしているが、私は驚きと拍子抜けでその場にもう一度へたり込んだ。まるで、ドッキリを仕掛けられたような気分だ。
「なまえさん」
柳生くんはそんな私を揺すって起こす。そして、手を取って再び傍のドアを開けた。
そこには燦々と降り注ぐ太陽があった。まぶしくて、暖かい。気がつけば柳生くんが手を握ってくれていた。それは太陽のように暖かな手だった。
「昨日の返事をきかせていただけますか?」
「え?」
「『愛しています』の、返事です」
そう言っていっそう意地悪そうな笑みを浮かべる彼は、まるでこうなることを予測していたかのようだ。これから私は彼への想いをじっくりと育てていくのだろう。
「私も――」
こうして終わりの物語は、始まりの物語になった。
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