放課後、たまに聞こえてくるピアノの音が気になっていた。部活が終わってからも鳴り続けるピアノ。はじめこそ、それは楽しげなワルツであったりロンドであったりしたのに、日ごとに苦しみを帯びたものに変わっていく。美しい旋律のはずなのに、ピアノを忌み嫌っているような弾き方で不思議でたまらなかった。
誰が弾いているかはすぐにわかった。同じクラスのみょうじなまえさん。私は知らぬ間に彼女に片思いをして、その苦しみの理由を分けてほしいと身勝手に願っていた。
そんなときに、あの日が訪れたのだ。
「番組の途中ですが、臨時ニュースです! アメリカの宇宙開発機構の発表によりますと、超大型の隕石が地球に接近しており、日本時間21日未明頃、衝突するとのことです! 隕石の規模は――」
Answer × Answer
一週間後に来るその日まで、特に何もせずに過ごした。みょうじさんに告白しようにも即日休校措置が取られては、住所も何も知らない私には彼女に想いを告げることもできない。それに、伝えたところで世界は終わってしまう。来世にかけることもできそうにない。潔く諦めようと思い、特に何もせずにずっと終末の日まで家にいた。
ところが、世界は終わらなかった。終末は回避されたのだ。
意気揚揚と登校した。卒業式の予行練習を行うとの連絡が学校から届いたからだった。これならきっとみょうじさんもいる。想いをちゃんと伝えることができるかもしれない。むしろ、神様がそうしろと言ってくださっているような気がした。
そう思ったのに、彼女は終末から逃げ出し、教室の窓から飛び降り自殺を図っていた。死体の硬直具合で昨日だと言うことがわかり、卒業式の練習どころか、彼女の追悼式に変化してしまったのだ。
こんなの嘘だ。何かのドッキリに違いない。まだ電気が復旧していない夜空に願いを込めて祈るしか出来なかった。どうして、もっと早く行動できていなかったのだろう。時間をあまりにも無駄にしすぎてしまった。痛みを誰かに分け与えていれば、彼女が死ぬこともなかったのではないか。そうして自分を責めながら眠りについた。
目が覚めたとき、枕元のデジタル時計は3月14日の12時半を差していた。テレビではニュースが流れている。
「番組の途中ですが、臨時ニュースです! アメリカの宇宙開発機構の発表によりますと、超大型の隕石が地球に接近しており、日本時間21日未明頃、衝突するとのことです! 隕石の規模は――」
そのとき、自分が時間を遡っていることを悟った。
彼女が死んだと思われる20日の日。私は急いでいて、土足のまま教室に昇った。一刻もはやく先回りして、彼女の自殺を食い止めなければならない。そして、想いを伝えたい。
「夢をーあきらめないー強さをー持ーてーたー」
その大声を教室で聞いたとき、思わず笑ってしまった。がらりと勢いよく開け放たれたドアから顔を見せた彼女に微笑んでしまう。彼女は相当、驚いたような顔をしていた。当たり前だ。死にに来たはずが、それを食い止める先客がいたんだから。
「絶対に死なせませんから」
「え?」
「いえ、なんでもありません」
春の、心地よい風が吹いていた。
-Answer-
[back]
[top]