ずっと誰かの背中を見てうらやましがって、言いたいことは胸にしまって、嫌われるのが怖いから近付かないように距離を取って、それでも嫌われて。そういう性格が私の人となりを作っているのです。人に近付くことが下手な生き物、それが私です。

 だから、好きな人と少しでも一緒にいたという証が最後に残れば、それはもう燃え尽きてしまってもいいと思えるほど幸せなことでした。燃えていれば、こんな私でも小さな光を出し続けるでしょう。幸せな記憶が熱とともに残るでしょう。






 12、よだかの星






 照りつける太陽がこんなにも熱いことを、久しぶりに知った。


「あっつ……」


 全国大会の有明についたあと、あたりをきょろきょろ伺って青学側の応援席をどうにか見つける。病院からの解熱薬を飲んで、許可もちゃんと得てきたのに、会場の高揚感が私に移ったみたいで目眩がした。熱は相変わらず、くるぞ、と警報を出している。

 落ち着かせるために、白くてつばの広い帽子を深めにかぶり直した。目が太陽の光を吸ってちかちかする。どうにか彼の試合の間は静まっていてください、お願いします。


「次のシングルスワンで勝てば、比嘉中に完全勝利で準々決勝進出だ!」
「心配ないって! だって次は……」


 そう言う男の子たちの視線の先に、いた。真剣なまなざしでコートの中央を見つめる手塚くんが、そこに。彼のユニフォーム姿を見るのはいつぶりだろう。懐かしくて、輝かしい。復活おめでとう。心の中で念じると、想いが通じたように彼が突然、振り返った。

 目が合った。しかし、笑ったり、手を振ったりすることはない。試合前で気が立っているから当たり前だろう。私も同じように何も反応を示さず、ただじっと彼を見据えているだけだった。それで充分すぎるほど幸せだった。


「シングルスワン、試合を始めます!」


 対戦相手と手塚くんが一歩前に出て対峙する。こうして試合が始まった。

 きちんとしたテニスの公式戦を見るのはこれが初めてだったが、続くラリーは素人の私の目からしてもすごかった。試合中に小石を投げて、姑息な真似をする相手。始まってからすぐ手塚くんは相手に押され気味で、腕の調子が悪いのでは、と頭に嫌な考えがどうしてもよぎってしまう。いや、それは私だけでなく、ここにいる観客全員が思っていることだったらしい。口々にそうささやく声が聞かれた。

 この空気に飲み込まれてはいけない。声援を送る青学勢に混じって、私は頭に響くくらいの大声を張り上げる。


「がんばれっ!」


 その瞬間、ブチッという何かが切れる音が聞こえた。左右に引き合わせた紐が千切れてしまうような音だった。くるぞ、くるぞ、という熱がくることを知らせる警報がさっきまであんなにうるさく鳴っていたのに、電源コードを抜いたように止まる。不二が声で気付いたらしく、目が合った。けれど、私の体内で進行する変化には気付いていないらしい。

 手塚くんがこちらを見ているようだった。その視線に気付いていながら、そちらに向くのは時間がかかる。黒目が金縛りから解けたときにはもう目は合わなかった。


 それからの試合は形勢を逆転し、圧倒的な強さを見せつけた手塚くんの勝利。会場は沸いたが、そんな中、自分の一部がどこか千切れた音を聞いてから、まばたきするのさえ辛かった。


「互いに礼!」


 試合は青学の完全勝利に終わり、会場からいち早く出て行く人達。私も早く行かなくちゃ行けないと、気持ちばかり急いて行動に移す気力がなかった。

 私はぐらぐらするほどまぶしいのを堪える。ようやく一歩を踏み出したが、一瞬で体中の力がすべて抜けてしまったような気がした。もう自分がどちらの方向を向いて立っているかわからない。逆さになっているのか、上を向いているのかもわからない。


「なまえ!」


 ただ心持ちは穏やかに、彼の勝利に笑顔が溢れた。

 私の身体はきっと今、静かに、炎に包まれて燃えている。


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