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 計画はすべて俺の思い通りに運んだ。なまえにはちょっと痛い目に遭わせることになっちまったけど、これからこいつが味わう幸せの数を考えれば結果オーライの範疇に入るだろう。だいたい俺は柳先輩や副部長にも「終わりよければすべてよし」ってタイプの人間だって言われたことがあるし、俺だって自分のことをそういう人間だって思ってる。だってそうだろ。結果がついて来なければ過程もクソも意味がない。

 つまり、今のこの状況は俺やなまえにとって一番いい終わり方だと思うんだ。




「完全犯罪の法則の話したの、覚えてる?」


 なまえは痛々しい腹の傷跡を撫でながら俺にきいた。俺は頷いて答える。


「あらゆることを予測してそれに備えることが必要、だっけ?」
「そう。重要なのは可能性を潰して、臨機応変に行動すること」


 完全犯罪の法則とはこの計画を実行するより前になまえが『極意』として俺に話してくれたことだった。いくら机の上で何十年と練った計画でさえ、予知していなかった目撃者や事柄によって簡単に崩壊し、足がつく。そのため、より完璧で鮮やかな犯行に及ぶには予知出来ない事柄が少ない方が有利であると彼女は言っていた。

 あのときの俺はちんぷんかんぷんだったけど、犯行後の今ならその意味が理解出来るような気がする。結局、実行犯と計画犯は交換することになったけど、その法則は意味不明な英語の文型より役に立ったって言っていい。


「お前がちゃんと出来てたから、俺達は今ここで話が出来るんだぜ」
「予測する時間は十分しかなかったけどね」
「十分ってなまえが言ったんだろ。……まあ、でも、俺はお前に賭けたんだ。幼馴染みの共犯者としてな」


 あれだけ優柔不断だったなまえは、いざ犯行のときになると自ら「十分」と宣言までした。きっとそのわずかな時間のうちに律儀なこいつはあらゆる可能性を考慮したんだろう。そして、ギリギリの段階でそれを実行した。


「運が良かったんだよ。私の期待通りのことしか起こらなかったから」


 運が残っていたのかも、と赤い舌を出したなまえが俺のよく知っていた昔のなまえと重なった。思えば俺はこいつに犯行を持ちかけられたときから、この顔を見たかったのかもしれない。だから途中で見捨てることが出来なかったんだ。

 まるで下校の放送のように、見舞時間が終了することを知らせるアナウンスが病棟内に流れ始めた。俺はそれを聞いて、脱いでいた制服の上着を羽織り、帰る準備を始める。なまえは残念がったが「退院したらずっと一緒だぜ」と言うと嬉しそうに笑った。


「じゃあ、また来るから。いい子にしてんだぞ」
「子ども扱いしないでよ。同じ年でしょ」
「まあ、いいじゃん。俺も嬉しいんだよ」


 なまえの頭をぐしゃぐしゃに撫でて、顔を見られないようにした。じゃないと、俺の顔にこいつが好きだって書いてあるような気がしたからだ。もうきっとなまえも俺の気持ちが分かってるだろうけど、やっぱりまだ恥ずかしさの方が勝ってしまう。俺はなるべく意識しないように「じゃあな」と口にして手を振った。


 病室から出た後、病棟の看護師さん達に頭を下げてエレベーターホールに出た。そこにちょうど来ていた無人のエレベーターに乗り込んで、備え付けられている鏡を見て意味もなくニヤリと笑ってみる。けど、すぐに我に返って自分の薄気味悪さにへこんだ。

 そこで俺は、この込み上げる笑いを堪えるためにも、自分達が起こした事件の全貌をイチから順番に思い返すことにしたんだ。


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