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その十分後、俺は近くの公園で警察と救急を呼んだ。「友達の家で、友達がお父さんに刺された」って嘘ついて電話したら、五分も経たないうちに警察が集まってなまえのマンションの周りを固めて家に突入していくんだから本当にすげーと思う。
そのうち血を流して救急隊に担ぎ出されたなまえと、取り押さえられて藻掻いているアイツの父さんを見て、俺は自分の計画が成功したことを確認した。腹に刺し傷を作っていたなまえは痛々しいものの意識があって、野次馬に紛れていた俺に笑顔をくれる。一方、アイツの父さんは派手に暴れながら「俺じゃない」とか「やめろ」とか叫び続けていた。
確かにあのおっさんはあのなまえの腹の傷を作っていないことに違いないが、アイツの消せない心の傷は深くて一生かかっても償えないだろうと思う。
俺は野次馬を抜けて警察に「通報者です」と名乗り出ると、人生で初めてパトカーに乗って警察に連れていかれることになった。事情聴取、ってやつらしい。正直事情を聞かれてもこの計画の真相は言えないが、アイツが悩んでたことを代わりに話してやりたかった。
計画は俺の頭でも組み立てられるほど簡単だった。なまえが自分の腹に死なない程度の傷をつけて、その包丁を親父に握らせたところを起こす。これだけ。俺が通報する時間から犯行を始めれば、ちょうど親父を起こしたときに警察が踏み込んでくるってわけだ。なまえの耳元でその計画を告げてるときは何てこと言ってるんだろうと思ったけど、意外と今ではいい方法だったと思う。アイツも滅入ってて、俺の計画の無茶さを考える頭がなかったのかもしれない。
ただその分、予想できる範囲での仮説は立てた。例えば、もしなまえの腹の傷を調べて親父がつけたものではないことが照明されたとする。けど、俺が警察でなまえがどれほど父親のせいで悩んでいたかを伝えていれば、ただの自殺未遂として処理されたとしてもアイツがこの先あの親父と住むことは無くなるだろう。しかも、病院ではアイツの首や服で隠れた部分に残っている虐待された痕が見つかるはずで、これは紛れもなくつけられたと言える。
他にも、もし捜査上でなまえの父親がアイツの母親を殺した証拠が見つかれば刑はずっと重くなるし、そうなれば必ず未成年のなまえはそういう施設に入れられるんだとまで予想した。でも、あんな親父と住むよりはよっぽどいい。
アイツの父親はやっぱりしていないと否認していたらしい。それでも、泥酔状態だったことと物的証拠、それから俺達の証言で黒の疑いがかけられ、さらに虐待していたという経験が動機に繋がるだろうと警察の人は言っていた。俺は心の中で嘘をついたことの罪悪感を感じたが、自業自得だとなまえの親父を心の中で笑った。
取り調べの後、人のいいおじさん刑事が俺をなまえの病院まで連れて行ってくれた。ちょうど手術が終わり、体調も安定しているところだと聞いて安心する。この計画の一番の心配は、なまえが俺の計画を無視して親父を殺すか、それとも自分で自殺するかだった。だが、俺はなまえを信じて、計画の最後にこう言ったんだ。
『なまえ、好きだ。もうお前のことを見殺しにしたりなんかしない』
信じてよかったって、本当にそう思う。俺はなまえの寝顔を見ながら、安心して泣きそうになった。
ふと、俺はこの計画の終わりに相応しい"いいこと"を思いついた。俺はそれを最後の大仕事として実行するために、一度病院の外に出て電話をかける。いろんな人から着信がついていたが、俺はその中でも一番初めに母さんに電話することにした。
◇
なまえが目を覚ましたのは夜になってからだった。起きて第一声が「よく寝た」で俺はずっこけそうになってしまう。どんな神経してんだよ、コイツは。
俺は病室の椅子をなまえのベッドに寄せて、どういう状況になっているか説明した。なまえはうんうんと頷いて、最後には「それでいい」と笑う。よかった。俺は本当にこの顔が見たかった。
「そういえばさ、お前の家は今警察が捜査してるみたいだから」
「もうあんな家は帰りたくないからいいよ。どうせ児童養護施設行きだ」
「……って、ふてくされると思ってさっき母さんに電話したんだよ」
俺がそう言うと、なまえは面食らったような顔をする。俺はなまえの頭を撫でながら、満面の笑みで続けた。
「俺の母さんがお前を引き取るって。だから、退院したら、俺達は一緒に暮らすんだぜ」
「嘘でしょ……?」
「嫌なのかよ?」
「バカ、逆だよ……」
なまえは大きな目から涙を流し始めた。俺はどうしていいか分からなくなって、じっとなまえの手を握っていることにする。もうずっと離してやらねぇよ。嫌になったって途中で言うんじゃねぇぞ。
俺はなまえの泣き顔を見ながら、この計画はさっき思いついたっていうのは死ぬまで黙っておこうと思った。だって、そのほうがなんか俺が頭いい奴みたいで格好いいじゃん。これが俺の完全犯罪! って感じじゃね! やべぇ、俺めちゃくちゃ頭いい。
計画はすべて俺の思い通りに運んだんだ。なまえにはちょっと痛い目に遭わせることになっちまったけど、これからこいつが味わう幸せの数を考えれば結果オーライの範疇に入るだろう。だいたい俺は柳先輩や副部長にも「終わりよければすべてよし」ってタイプの人間だって言われたことがあるし、俺だって自分のことをそういう人間だって思ってる。だってそうだろ。結果がついて来なければ過程もクソも意味がない。
つまり、今のこの状況は俺やなまえにとって一番いい終わり方だと思うんだ!
Completed our perfect crime!
Thank you for reeding.
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