time waits for no one | ナノ
24,
「なまえ…?え?」
突如目の前に現れた彼女の存在に、意味が分からなくてあたふたとしてしまう。
さっきまで蓮二に話していた通り『会うのは全国大会だ』と言ったのに、普通に宣告もなく彼女はこの病室に存在している。表情を殺して。
一体、この状況を誰が予想できただろうか。
「約束したじゃないか。まさか…忘れちゃったの?」
なまえが首を振る。
「ごめん、どうしても無理だった」
「え?」
「8月まで、いられそうにないから」
唇を噛み締めて悔しそうに言う。いられそうにない、って。まさか、また転校するとか?
俺はこの状況にどうにか対応していこうと必至で頭を回転させる。一方、なまえはついに目に涙を溜めて、それを零さないように上を見上げていた。彼女らしくない。
いつからか、なまえはいつも泣き顔になってしまった。俺がこんな体になったせいだ。俺は自分の腕を伸ばして彼女の手に触れようとする。
しかし、確かに彼女はそこに存在して、目に見えているはずなのに手は宙をかいた。
「幸村」
「なまえ…?」
「今から私が話すこと、全部信じられないかもしれない。それでも、それは本当のことだから、ありのままを受け止めて理解して欲しい」
そう言い切った後に、堪えきれなくなったように彼女の両目の端から透明な雫が溢れた。
その雫はちょうど俺の手の上に落ちたはずなのに濡れないどころか水滴が落ちたという感覚すらない。
俺の心はそのことに気を取られて何も準備ができなかった。
「私、ここよりずっと遠い所に住んでたんだ。この時代よりも、ずっとずっと後の」
「後…?」
「ずっと後の…未来」
「…ちょっと待って?さっきから何言ってるの?」
どうにか自分が頭を付いて行かせるために時間が必要で。
どういうわけか直接なまえに触れられなくなった俺は、彼女に落ち着くように言葉をまず制止してほしかった。
「…俺を騙そうって言うの?…あ、分かった!どうしても俺に会いたくなったから、怒られると思ってそんな変な嘘吐いてるんでしょ?怒らないから、もう辞めてよ。お願い」
「…時間がもうないから、続き言うね」
ふとなまえの腕時計を見ると、時計の針はぐるぐると高速で回転している。
怖くなって枕元のデジタル時計を振り向き、見た。普段なら点滅している時間と分の間のコンマが起動していない。秒の数字は止まったままだ。
この状況がなまえの言う話の確証のように思えた。
「未来から来た人は必ず未来に帰らなきゃいけない。そして、過去に住む人の未来を変えてはいけない。未来人法って言うのがあって、この規約は破ってはいけないの。…もし破ったら、ここには居られなくなる」
「…もしそうだとしても!何もなまえはその規約を破ってないじゃないか!」
「第31条、タイムリープは生涯1度しか行ってはいけない。今の私は2回目。…そして、もうひとつ、今から私は最も重大な禁忌を犯そうとしてる」
「重大な禁忌…?」
なまえがいつものように、俺に微笑みかけた。
「…今回、私は幸村の未来を変えに来た」
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