神様の部屋 | ナノ
――憂鬱だ。
私は人間として十分生きた。いや、生きすぎたのだ。目立って人の役に立つこともなく、誰かを想って生きることもない。このまま生きていても、ただこの身が孤独に朽ちていくばかりであろう。そんな私を、誰が慕ってくれると云う。
呼吸し、食物を摂取し、排出し、睡眠を取るだけの生活は動物そのもののようだ。もはや、私は人間ではない。
台の上に昇って、長年問い続けてきた己の生の意味を考えた。自分が費やした原稿用紙の屑が、辺りに散らばっている。私はこの屑と同じだ。自分の問いに結論にも至らず投げ出し、絶望して死を選ぶ一匹の獣にすぎない。
左様なら、世界。左様なら。
背伸びをしたとき、ふと、私の頭にとある人の顔が浮かんだ。だが、もう遅いのだ。私の後ろ髪を引くものは、もう何もない。
私は自分の喉笛に縄をかけ、台を思いきり蹴飛ばした。
左様なら、世界。左様なら。―――
(遊馬 優 『神様の部屋』)
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