5/wish





自分の部屋のベッドで横になりながら、チビスケの部屋から勝手に持ってきたテニス雑誌を見る。あのチビの写真が大きく載っているそれを端から端まで余すところなく読み続けた。みょうじもこれを読んだんだろう。

何をきっかけにしてみょうじがチビスケを好きになったかは知らねえが、やっぱり女から見れば格好いい部類に入るんだろうか。深くため息をついて、雑誌を雑にベッドの下に落とした。


腕を自分の口元に置いて目を閉じる。

あの赤い顔はチビスケのこと考えたからじゃなくて、俺が作りだしたんだ。そう思うと得体のしれない征服感が沸いた。


あのチビじゃなくて、俺。俺だけに、笑って欲しい。



「ん!?…いや!ないない!」



独り言を言って身体を起こす。それじゃあなんか、俺がみょうじのこと好きみたいいじゃん。ありえねえ。

結論付けてもう一度横になる。今度は腕を頭の下に置いて、別のことを考えようと必死だった。




「…ねえ。入っていい?」



部屋のドアを叩く音がしてすぐ、チビスケの声が聞こえた。

俺は下に無造作に落としていた雑誌を拾い上げて、折り目がついてないことを確認してから承諾の返事をする。ドアノブが動いた。



「…やっぱり。俺の雑誌、ここにあったんだ」
「お、おう。悪ぃな!」
「勝手に持って行かないでよね」
「別にいいだろ。あ、お前の記事見たぜ?」
「だったら?」
「可愛げねーなー。せっかく褒めてやろうってのに…あ、そうだ!」



パラパラと雑誌をめくる自分の弟を見て、いいことを思い付いた。が、まだ何も言っていないのにリョーマは既に嫌そうな顔をしている。ろくなことじゃないだろ、って顔。

俺はそんなことも気にせず立ちあがって部屋のドアを閉めてから、リョーマの肩を押して適当に座るように促した。ちなみに拒否権はない。



「なに?」
「いや、お前さー彼女とか居んの?」
「居ないけど」
「よし!」



その否定の言葉にガッツポーズすると、露骨に嫌そうな顔をした。眉間に皺を寄せて、若干怒っているらしい。
でも、俺はさっきと同様、別段何も気にせず、提案を続ける。



「実は、クラスの女子がその雑誌の記事見て、お前のこと気に入ったみたいでさ。紹介してもいい?」
「やだ」
「まあそう言わずに!だいたいガールフレンドくらいなら、お前も欲しいだろ?」
「別に」
「強がんなって!じゃあ、代筆ということで俺が渡しといてやるよ。お前の連絡先」



チビスケは何も言わずに立ち上がり、部屋から雑誌と共に出て行った。たぶん、もう何を言っても無駄だと思ったんだろう。その選択は正解に近い。

みょうじは喜ぶだろうか。これで、今日のことも許してくれて、俺との仲も友達までは行かずとも話くらいしてくれるようになるだろうか。


そうなったら…いいな。




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