パラレルワールドは、君を殺す。 | ナノ
7th period,
目が覚めると白い天井だった。久しぶりの電車以外の光景に懐かしさを抱く。ここはどこだろう。とりあえず、頭が痛い。
痛む所に触れてみると、包帯が巻かれていた。
また身に覚えのない事で驚いたが、一瞬でこの世界は確実に現実だとわかる。なぜなら俺の周りには、信頼を寄せるテニス部のみんなが俺を囲んでいたからだった。
「幸村!?」
「精市!」
「誰か、ナースコール!」
「あ、はい!」
あわただしく、それでもどこか嬉しそうな彼らを見て、ようやくあのパラレルワールドから抜け出せたことを安堵する。
やっぱり、現実なら現実らしく、こう彼らがドタバタしてくれなきゃ面白くない。頭には響くけど。
「大丈夫か、精市。…あの日のことは覚えているか?」
「…あの日?」
柳が『やはりか…』と言って、うつむく。すると、ブン太が横から俺に説明してくれた。
「幸村くん、学校に来る途中で線路に転落しそうになった女の子助けたんだぜぃ?そっから1週間、全然目覚まさねえからさ…俺達すげー心配でよぃ…」
「不幸中の幸いとして、幸村くんは電車と線路の隙間にちょうど入り込み、少し頭に怪我をしただけで済んだそうです。そして、その女性も軽い怪我だけ。これは、幸村くんのおかげですね」
柳生がそこまで言ってから、俺はさっきまでのが半分夢ではなかったんだと悟った。どうやら、俺はあの子を助けたときに頭を打って、あのパラレルワールドの中を彷徨っていたらしい。
そうだ、思い出した。あの日、俺は彼女に声をかけようとタイミングを計っていたとき、ちょうど線路から滑り落ちそうになった彼女を助けたんだ。見ていた夢のせいでごちゃごちゃになっている記憶を整理して、俺は順序立てて少しずつ思い出していく。
何度やってもゲームオーバーになる世界だと思っていたけど、俺はきちんと現実の世界で彼女を助けられていたんだ。そう思うと、少し誇らしい気分になった。
「…そうか。とりあえず、俺は彼女を助けられたんだね」
「ああ」
「彼女は?今、どこに?」
「もう退院したぜよ」
「あの人、毎日お見舞い来てるんスよ!だから、もうじき来るかも」
「…って噂をすれば…」
コンコン、と遠慮がちにノックされたドアから、彼女が部屋を覗き込む。それと同時に、俺の心臓は跳ねるのがわかった。やっぱり、俺は彼女のことが好きなんだと実感せざるを得ない。
「ごめん。みんな、少し外に出てくれないかな?」
俺がみんなに呼び掛けると、快く了承が貰える。
みんなが完璧に全員出てから、俺は笑顔で彼女を招き入れた。彼女は傍にあったパイプ椅子にスカートを整えながら座る。そして、口を何度か開閉させて、うつむきながら言った。
「あの…幸村くん。この度は…私に関わったせいで…。本当にすいませんでした。何度お詫びしても足りません」
「ううん。君が無事で本当によかったよ」
「…私、本当に幸村くんに何かあったら、電車に飛び込むつもりでした」
彼女が泣き声でそう語った。俺は笑う。
きっと俺が目を覚まさなければ、彼女はきっとあの世界通りになっていたんだろう。不思議な気分だった。
それにしても、いまだによくわからない部分がある。俺は彼女にそれを思いきって尋ねることにした。
「1つ聞いてもいいかな?」
「はい」
「俺が君を助けた時、まだ自己紹介はして居なかったと思うんだけど、君は俺の名前呼んだよね?君は俺の名前、知ってたの?」
「それは…」
俺の質問に、彼女が口ごもる。
正直、そこが一番腑に落ちない。
俺はあの日、彼女に名前を告げる前にホームから落ちた。それにも関わらず、彼女が叫ぶように俺の名前を呼んだ声を俺ははっきり記憶している。まだ彼女に自己紹介すらしていなかったはずなのに。
俺の記憶がごちゃごちゃになっているだけかもしれないが、彼女の口ごもり方を見てそうではないと察する。
「あの…ひきませんか?」
「ひかないよ」
俺が言うと、彼女は胸をなでおろしながら口を開いた。
「…私、ずっと電車で幸村くんのことを見かけてから、すごく気になっていたんです。いつも同じ車両だから…。それで立海の友達に教えてもらったり…して…」
「…あはははっ」
「えっ」
俺はなんだかおかしくて笑ってしまった。彼女が慌てるのもお構いなしで。
質問ついでに、もう一つ、彼女に尋ねてみる。
「いや、ごめんね。あと、もう一つ質問いいかな?」
「はい…」
「君の名前は?」
MY PARALLEL WORLD WILL NOT KILL YOU.
Thank you very much!
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