パラレルワールドは、君を殺す。 | ナノ
6th time,
電車に乗っていた。何度目かは数えていないからわからないけど、もうどうでもいい。
夢ならば酷過ぎるくらい最低な夢だけれど、夢ではなく、彼女の言うパラレルワールドの中を彷徨っているとすれば、俺はいずれそれに殺されるのかもしれない。そんなアニメのような世界を上手く信じることは出来ないが、これが今一番信じられることのような気がした。
先ほど電車に乗ってきたばかりの彼女は、またもいつも通りうつむいている。しかし、今回の世界では涙を流して居ないようだ。ここからじゃ、どんな顔をしているかわからないが。
乗り換えのアナウンスを聞いて、俺は席を立った。
『パラレルワールドは、君を殺す』
もう、その結末でいいよ。
あの子が助かって、俺が死ぬならもうそれでいい。俺は、一刻も早く、この出口のない世界に終止符を打ってしまいんだ。
ただ、最後に俺はやっておきたい事がある。
最初そうしたように、乗り換えのホームで彼女に声をかけようと思った。けど、今回は自殺を止めようとするんじゃなくて、純粋に気持ちを告げる為に右手を伸ばそう。
だから、彼女が先にドアから飛び出したのを見送り、いつも通り足早に改札を抜ける姿にも俺は動じなかった。
乗り換えの駅のホームまで、彼女の足は今まで通り早かった。けれど、今回は追いつけない距離でもなかった。初めて彼女に追いついた俺は、8時に彼女を轢く電車が来る前に声をかけることに成功する。
周りの目なんか関係ない。ここで言わなければ、俺は言えないままこの世界に殺されてしまう。
右手で彼女の肩を掴んだ。
「君のこと、電車で見かけてからずっと好きでした」
彼女が驚いたように振り向いた。
『まもなく、2番線に電車が通過します』
ぐにゃりと歪んだアナウンスと共に、今まで以上に轟音を立てて電車がホームに滑りこむ。
彼女は俺の手を払って背を向け、線路へと足を踏み出す。俺はもう一度右手を伸ばした。
そして、そのまま彼女の腕を勢いよく引いて線路から落ちるのを防ぐ。とっさの判断だった。
「幸村くん!」
彼女を押し退けた代わりに、俺は線路に身体を横たえた。落ちながら、ゆっくりと傾く世界で彼女を見つめる。こうなる結末は初めてだったはずなのに、どうしてか俺は彼女のこの顔をこの角度から見たことがある気がした。それに、彼女が俺の名前を呼ぶのも、どうやら初めてじゃない。
ああ、でも。もう何も考えられないんだ。今度は本気でゲームオーバーになるんだろう。それでもういいけど。
視界は真っ暗になっていく。頭から、ぬるりとした液体の感触が気持ち悪くて笑えた。
08:00
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