蒼鳥カムパネルラ | ナノ
終礼をしてすぐに僕は鞄を担いだ。早くなまえに読んであげたい。雑誌も、昨日の続きも。
「あれ?不二、帰っちゃうのー?」
「ああ、うん」
「ちぇー。海堂新部長からかいに行くの誘おうと思ったのにぃー」
全国大会後、海堂に引き継いだ青学テニス部は彼を筆頭に練習に精を出していると聞く。僕らは一応引退した身だけど、よく練習を覗きに行っていた。と言っても、結局打ち合いや指導にあたるんだけど。
英二が口をとがらせて言うから、僕は少し微笑む。
英二には図書館でのことを一応伝えている。しかし、なんとなく僕はそれを口実にテニス部に顔を出さないと言うのに気が引けて、思わず『用事』と嘘を言った。英二も『そっか』なんて言って、何かを考えながら頭の後ろで腕を組む。
「大石でも誘ってみるかなあ」
「いいんじゃないかな。ダブルスの練習見てやれば」
「ゴールデンペア、だもんね!」
ブイサインを作った英二に微笑むと、彼は何かを思い出したように大きな声をあげた。
「そう言えば、あの子には会った?ほら、図書館の。青い鳥の女の子」
そのことだろうと思った。僕は観念して、英二になまえのことを話し出した。
「昨日会ったよ、なまえって言う子なんだけど」
「えー、やったじゃん!可愛い子?」
「うん。でも、かなり目が悪いらしい。…だから、力になってあげたくてね」
「そっか…」
これじゃあ、用事と嘘をついたことも丸わかりのような気がしたけど、英二はそんなことで僕を嫌いになったりしないだろう。
そう思っていると、少しシリアスな話をしていたのに、プッと英二が噴き出した。なんだと思えば、けらけらと楽しそうに僕を笑う。
「どうかした?」
「ううん。不二、頑張るんだにゃ」
「何を?」
「だって、なんか不二がその子のこと好きみたいで。そんな不二初めて見たから、つい」
昨日の姉さんに言われたように、英二にもどうやら僕がなまえを好きだと言う風に見えたらしい。僕自身、それは早い気がしているけど、2人にも言われるなんてこれはもう本格的に恋なんだろうか。
いつもは僕の方が彼をからかうことが多いのに、逆にからかうようにくすくすと笑っている英二。彼を見て、僕も少し笑った。
「そうかもね」
「え?」
「だから、好きかもって」
そう口にした途端、なまえのことがより愛しくなった気がした。
言葉は魔法だと思う。その魔法にかけられたように、なまえのことが好きだと言う気持ちが一挙に僕の中に生まれてくる。認めてしまえば、楽なものだ。
きょとんとしている英二を背に、『またね』と手を振った。
そうか、これが好きということなんだ。
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