蒼鳥カムパネルラ | ナノ

「あ、そうだ。何て呼べばいいかな?同じ歳…だよね」
「僕は15だよ。君は?」
「私も15!じゃーあ…そうだなあ…。周助って呼んでもいい?」
「いいよ。じゃあ、僕もなまえって呼んでもいいかい?」
「もちろん、本当に嬉しいなあ」



でも、きっと彼女は嬉しくて笑ってくれているのだと思った。そんな顔を見ているとつい僕まで嬉しくなってしまう。

ここに来てよかった、僕は早くもそう思った。



「今日、僕がここに来たのは、なまえに渡したい本があったからなんだ。この本なんだけど」
「青い鳥だね。私、この話が好きで、図書館に行くたびに借りてたの」
「司書の人に聞いたよ。落書きしてたのも、もしかして…なまえ?」
「あはは。でも、内緒だよ?」
「どうしようかなあ?」
「えー!ひどいよ、周助!」
「あはは、冗談だよ」



僕はどうしてか、なまえに名前を呼ばれるのが嬉しかった。最初は自分の名前を呼ぶのが家族くらいだから、慣れないせいだろうと無視しようとしていたけど、どうやら少し違うような気がする。なまえの声は僕にとって心地よく聞こえる。


2人でしばらく冗談をいいながら笑っていると、なまえは急に表情を堅くした。伏し目がちに笑った顔は、何かを諦めたような顔だった。



「持ってきてもらったのはすごく嬉しいんだけど…けど、もう読めないの。視界がぼやけて、それに中心しか見えないって言うか…最近、視野が狭くなってきてるみたいで」



『筒から覗いた世界、って言うとわかりやすいかな』と、なまえは続けて自嘲するように笑った。



「進行性の病気なの。いずれは失明するかもしれないんだって」



少し脅えるように足を曲げてひざを抱え込んだなまえは、ひどく頼りなかった。

僕は医者じゃないし、彼女の症状を聞いてもいまいち実感が沸かない。辛さもよくわからない。
けれど、失明するかも知れないとわかって過ごすことは、きっと想像を絶するだろう。家族の顔だって見れないし、好きな本だって読むのを諦めなきゃいけない。


なまえの細い肩に手を置いた。でも、わからないなりに、僕は僕の出来ることをしよう。そう思った。



「大丈夫。今日、僕はこれを君に読もうと思って、君に会いに来たんだよ」



顔をあげたなまえと、一瞬で視線を合わせることは難しかったけれど、それでも確かに視線を交わらせることが出来た。

なまえの瞳は少しだけ揺らいでいた。



「嬉しい。本当に嬉しい…ありがとう、周助」
「どういたしまして」
「…あのね。その本を読む前に、一つだけお願いがあるの」
「なんだい?僕に出来ることならお安い御用だよ」
「あのね…本よりも今は、周助とお話がしたいの…駄目かな?」



そのあまりに自信のなさそうな顔に、笑みが漏れてしまう。そんなの、本を朗読するよりも簡単なことなのに。



「もちろんいいよ」



なまえの自信なさそうな願いを、僕は受け入れた。なまえは優しく笑ってくれた。






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