蒼鳥カムパネルラ | ナノ
図書館で一気に本を返した僕は、ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。なまえに関する想い出を消そうとは思ってないけど、あり過ぎるのは辛いからこれでいい。
姉さんのおかげかもしれない。もしかしたら、姉さんの言っていた幸運の鍵はこのことだったのかな。帰ったら、もう少し僕の運勢を見てもらおう。少しは僕も前向きにならなくちゃいけない。
なまえは僕と離れてしまったけれど、お母さんと一緒に暮らせるようになったらしいからもう一人じゃない。目もアメリカでいいお医者さんに出会って治るかもしれない。
それで、そのあと。
そのあと…なんて来るかどうかわからないけれど、僕は思う。その後、またもし出会ったら、青い鳥の続きを読もう。なまえと一緒に。
僕の足は、図書館でもあの青い表紙の本を探すために動き出していた。確か、児童書のコーナーの少し高めの棚。日に焼けて黄ばんでて、なまえが落書きをたくさんしてて。
なかなか見つからず、うろうろと動き回って、やっと青い本を見つけた。今度は僕に見つけて、とでも言うように低い位置に入っていた。それは、まるで誰かが無理やり入れたように。
背表紙を捕まえて、最後のページを開く。なまえが『もう 読めない』と書いていたページ。
ぽたり、と何かが落ちた。最初はボロボロの本のページ自体が落ちたのかと思ったが、そうじゃない。
白い便箋。切手も何も貼られていない、ただ白い便箋。
本を閉じてその辺りに一度置き、僕はそれを拾い上げた。裏返すと、少し崩れた大きな文字で、『しゅうすけへ』と書かれている。なまえだ。急いで封を開けた。真っ白い紙が、一枚だけ。
『 しゅうすけへ
これが、あなたに届くことを祈ります
今までありがとう 毎日がすごく楽しかった
恋なんて一生出来ないって、あきらめていた私を
笑わないでいてくれて 私はうれしかったよ
たくさん本を読んでくれたこと 星を見に行ったこと キスしたこと
王子様みたいな、魔法使いみたいな しゅうすけが大好きでした
私の夢を叶えてくれて本当にありがとう
でも できればずっと 私はしゅうすけのそばにいたかった
迷惑かけてなかったかな それだけ心配です
どうか お幸せに
なまえ』
ポタポタと、頬を伝って行く涙が止まらなかった。どうしても、どうしても。
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