蒼鳥カムパネルラ | ナノ
僕はなまえがいつアメリカに行くかも、なまえがどうしているのかも、何もかもわからなかった。ただ春に会いたい。どうしようもないこの気持ちを抱いたまま、抜け殻のように過ごす毎日が全て憂鬱で。何もかもがなまえを思い出させて、何もかもが嫌いだった。
姉さんがそんな僕を見かねて、部屋へやってきた。何も話してないけど、どうやら姉さんには僕のことはお見通しらしい。
「周助、タロット占いでもやらない?」
「…今はいい」
「まあ、そう言わないの」
姉さんはそう言って強引に僕を誘った。そっとしておいて欲しかったけど、姉さんは落ち込んでいる僕を無理やりにでも元気づけようとしてくれているようだった。そんな姉さんを無碍にも出来なくて、しぶしぶ付き合うことにしてみる。
カードを切るように言われたり、分けるように言われたり、何度かやったことがあるその行動さえも今の僕には億劫だ。どうせいい結果なんて出るわけない。初めから、わかっているのに。
こんなことしたって、なまえには会えないって。
やっと姉さんがカードを机に並べて、唸り始めた。結果なんか、正直どうだっていい。
「周助」
それでも、心のどこか奥底では、なにか打開策が欲しかった。
「なにか忘れ物してない?」
姉さんの言葉に、僕はポカンとした。忘れ物って、学校にノートとか、教科書はすごくたまに忘れたりするかもしれないけど。僕は学校でもあまり物を忘れるということがない方だ。
「なにか些細なことを忘れてるはずよ。宿題はちゃんと出してる?」
「出してるよ」
「じゃあ、なんだろう。本当に些細なことなんだけど、それが周助の幸運の鍵…かしら」
幸運の鍵が、忘れ物なんて変な結果だと思う。それでも、姉さんの占いは信用に足るから、怖いんだけど。
僕は必死に脳内で自分が忘れてものについて考えた。学校関係じゃないとすれば、なまえ?
なまえの家に忘れ物なんてしていないと思う。していれば、僕がテスト期間だったときになまえから聞いているだろうし。
僕はゆらりと視線をカードから外して、カレンダーを見た。なまえに会える日までをバツ印付けていたカレンダー。その今日の欄に何かが書かれている。
『図書館の本の返却日』
「あ」
「忘れ物、見つかった?」
「図書館の本、返してなかった」
「あらあら。じゃあ、さっそく今から行きなさいね」
「…うん」
姉さんに促されるまま、手元にたくさん残っている天文学の本をさっそく鞄にしまった。この本だって、なまえと一緒に読んだ本だ。あのとき見た星達は、今でも瞼の裏に残っている。
なまえもそうであればいい。ついでに僕の顔も。
もう二度と会えないかもしれないから、そう思うのは僕の勝手だろう。それくらい神様にもどうか許してほしい。
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