reminiscence world | ナノ



指輪は未だにポケットの中。相変わらず変わらない私達の関係。何が悲しいのか、正しいのか、それすらわからないながら、神崎さんから言われた言葉は未だに私の胸を締め付ける。



『幼馴染だかなんだか知らないけど一緒に見に行けば?』

『侑士にちゃんと言ってよ。クリスマスは一緒に過ごせない、って。みょうじさんから』



そんなの言いたくない。侑士と一緒がいいに決まってる。




『一緒に見に来ようぜ。クリスマスに』



でも、侑士を選べば、岳人はどうなるの?一緒に見に行こうって行ってくれたあのクリスマスツリーはどうなるの?そんな疑問もまた、浮かんでは泡のように弾けて消える。よくわからない感情のまま揺れ動くのは、私がずるいせいだ。どうしようもない。







そんな中、クリスマスを10日前に控えたある日、久しぶりに侑士から連絡があった。放課後に音楽室まで来てほしいと、たったそれだけだったのに、そのメールだけで私の心は弾んだ。

侑士なら私をこの状況から救ってくれるような気がした。たとえ、それ以外の話であったとしても、きっとこんな風になってしまった私達のことを侑士は説明してくれるに違いない。

昔は榊先生から鍵を借りて、侑士と音楽室で待ち合わせして話をしたことがよくあった。幸せだった。あの頃のように今日だって、何でもない話で安心させてほしい。



音楽室のドアを開けると侑士が既にいて、机にもたれていた。顔は、あまり笑っているようには見えない。その顔を見て、それまでの期待に不安が混ざるように波及する。



「ひ…ひさしぶり」
「ああ、せやな。…ひさしぶり」



こうやって私に向けられた声を聞くのは、随分久しい。侑士は私に鍵を閉めるように言って、ドアから一番遠くの死角に誘った。どうしてか、その時はわからなかったけど、理由なんてなんでもよかった。



「あんな…」
「うん…」



久しぶりに話すせいか、私も侑士も声が出なかった。以前通りに行くことはやはり難しい。それくらいの期間と、状況が私には憎かった。侑士が言わんとしていることが、私にとっては幸なのか不幸なのか、判決を下されるようにごくりと喉を鳴らす。

ようやく侑士が一呼吸おいて、私をすっぽりと腕の中に閉じ込めた。久しぶりに嗅ぐこの匂いに、涙が出そうなくらい嬉しかった。



「なまえ…クリスマス、どうする?」
「クリスマス…?」
「せや。駅前にでかいクリスマスツリーできたやろ?あれ見に行くか?それか、買い物一緒に行ってプレゼントでも買うたろか?なんでもしたるで。ずっと…1日中一緒や…」



侑士の腕の力が強くなった。私はその意味を知らない。

まさか、侑士から出てくる話がクリスマスの話だとは思っていなかった。神崎さんと言い、侑士と言い、クリスマスになにか訳があるのだろうか。


そんな疑問と同時に浮かぶのは、どうして、神崎さんとのことを説明しないのかということ。私が知らないと思ってるなら、侑士は馬鹿だ。それを聞くまでは、クリスマスの話だってただの罪滅ぼしのように聞こえてしまう。



「ねえ、侑士」
「なんや?」
「これからは…一緒に居れるの?」



侑士に抱かれたまま、私は尋ねた。

聞きたいことはたくさんあり過ぎるくらいあるけど、この質問に一番核心を持ちたい。じゃないと、私は壊れる。クリスマスだけ一緒に居れても、他が居れないなら意味がない。安心できる言葉が欲しい。


しかし、侑士の言葉は私にとっては少し残酷だった。



「クリスマスまでは…我慢して欲しい」



なんで。

侑士の甘い匂いに酔いながら、私は聞くに聞けずに押し黙る。



「ほんまや、信じて?クリスマスまでにはケリつける」



そんな言葉、どこに確証があるの?

クリスマスプレゼントもいらない。ただ傍に居て欲しいだけなのに。もう耐えられないよ。



私はゆっくりと侑士を押して、腕の中から抜け出した。



「わかった…」



私は嘘ばっかりだ。信じてもないのに、嫌われたくなくてわかったふりをした。





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