reminiscence world | ナノ



放課後、屋上で神崎さんを待った。私は一生懸命自分の聞きたいことや、対応をイメージトレーニングする。授業中だって、本当はいけないけど、ずっとそうしていた。

少ししてから、屋上の重い扉が開く音が聞こえる。

ドアから少し顔をのぞかせた神崎さんに、ごくりと唾を飲み込んだ。




「こんにちは、みょうじさん」
「…こんにちは」




ふんわりと笑う彼女に動揺する。誰から見ても、神崎さんは可愛い。

私はそれを消し去るように軽く頭を振って、彼女を見据えた。




「来てくれてありがとう」
「ううん…」
「呼び出した理由、わかるよね?」
「…なんとなく」




確証はないが、侑士のこと以外あり得ない。私に近付く彼女は、可愛いのに、どこか歪んだ笑い方をした。それに一瞬不安になったけど、意識をしっかり保つ。唇を噛んだ。




「ねえ。みょうじさんって、クリスマスはどうするの?」
「…え?」




突拍子もなく神崎さんはそんなことを私に尋ねた。

クリスマスという単語に、私はこの前岳人と一緒に見た未完成のクリスマスツリーのことを思い出す。




『一緒に見に来ようぜ。クリスマスに』




クリスマス、どうするんだろう。あの時は、侑士が私の元に戻って来るかもしれないと思って、岳人にははっきりしない返事をしてしまったけど…。


私が動揺していると、神崎さんはしっかりとした口調で言う。




「侑士、浮気してるよ。私と。でも、それはみょうじさんも同じでしょ?」
「え?」
「クリスマスツリー、幼馴染だかなんだか知らないけど一緒に見に行けばいいじゃない」




握りしめた手に、じとっとした汗をかいていた。

この前のこと見られていたんだ。私はそのときのことをひどく後悔した。今更遅いけど。


そして、やっぱり侑士は浮気をしているという事実は確定してしまったらしい。私が聞く前に彼女が肯定してしまった。


私がずるいからこうなるんだ。侑士が浮気しているからって、岳人の優しさに甘えて。


最低だ、私。





「だから、侑士にちゃんと言って欲しいの。クリスマスは一緒に過ごせない、って。みょうじさんから」




私の話は終わり、と彼女が屋上から去る。私はそれを見送って、静かに膝から崩れ落ちた。

地面が涙で濡れる。馬鹿みたい。なんでこうなっちゃったんだろう。

そして、こんな状況になっても、私は侑士が一番好きなことに変わりなかった。変わりないからこそ、とめどなく流れる。侑士が私の名前を呼ぶ声を忘れることが出来ず、耳に残った声が反響してやけに聞こえてくる。




「…もう、嫌だ…」




初めて自分の指から指輪をはずす。『これにずっと縛られることが侑士に執着する理由なんじゃないか』なんて考えて、私もその場を後にした。





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