reminiscence world | ナノ



岳人は『行きたい所がある』とか何とか言って、私をやたらと連れまわした。

食べ歩きのできるお店にたくさん寄ってお腹いっぱいになるまで食べたり、ゲーセンで財布が軽くなるまで遊んだり。と、思えば、また『腹減った』なんて言うから燃費の悪い岳人に合わせて一緒に晩ごはん食べたり。


侑士のこともすっかり忘れて、たくさん笑った。今まで悶々と考えていた悩みが嘘みたいに消えて行くのがわかる。岳人と遊んだのもかなり久しぶりだったけど、やっぱり岳人は私にとってすごく話しやすいし、一緒に居てすごい気が楽な相手だったんだと改めて思った。



「もうこんな時間かよ!そろそろ帰るか」
「あ、うん…」



岳人が携帯で時間を確認してそう言った。本当は頷きたくなかったけど、困らせたくなくて頷く。この時間が永遠ならいいのに。

すると、一瞬間を置いて岳人は私の頭をぐしゃぐしゃに撫でてきた。



「わ!」
「そんな顔すんなよ、帰したくなくなるだろ」
「う…」



帰りたくないよ。久しぶりにこんなに笑ったんだもん。きっと帰ったら私はまた侑士でいっぱいになる。好きだから仕方ないけど、好きだからこそ辛い。

岳人は『しゃあねえなー』とつぶやいて、私の手を引いた。



「帰る前にもう1個行きたいとこあんだけど…。行くか?」



私は黙って頷いて、岳人の後ろを付いて行った。





行きついた先は大きな繁華街の中。駅に程近い場所に、大きな木が立てられていた。時期的にクリスマスツリーだろう。工事中らしく囲いがしてあるものの、ほぼもう完成していて、後残す所は電飾を付けるのみと言ったところだ。



「これ、出来上がったらすごいだろうね…」
「だろ?」



黙ってその木を見つめていると、おもむろに岳人が私の手を握った。それに驚きつつも私は目線を岳人に変える。



「一緒に見に来ようぜ。クリスマスに」
「え…」
「お前と見たいんだ」



それは甘い蜜のように思えた。このまま甘えて、本当に岳人の彼女になれば、どんなに幸せだろう。


しかし、それと同時に岳人が握っていない左手の薬指がうずく。

侑士はクリスマス、何をするんだろう。もしかしたら、クリスマスには改心して侑士も私の所へ戻って来るかもしれない。


私、どうしてこんなに侑士のことばっかりなんだろう。期待していたら、裏切られたときが辛いのに。



「…考えておくよ」



それが精一杯の反応で、岳人が唇を噛みながらゆっくりと私の手を離した。





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