reminiscence world | ナノ



私は走った。

岳人がまだ待っているという確証はない。それに、私は岳人に一緒に見ようという誘いにも返事していない。なのに、岳人が私を待っているかもしれないと思うだけで、足が前へ進む。そんなに距離は離れていないとは言え、この寒空の中で岳人を一人にしておけない。


つまりは、そういうことなのだ。

侑士に愛想が尽きたとか、別れたからとかじゃなくて、根底で岳人を求めてる。ずるい女だって、怒られてもいいから、私は言わなくちゃいけない。『岳人と一緒にクリスマスツリーが見たいんだ』って。


以前来た時には未完成だったツリーが、煌びやかに輝いているのが見えた。あと、もう少し。



「岳人…!」



オルゴール調のクリスマスソングがどこからか流れてきているのを、息を弾ませながら聞いた。それがあの大きなクリスマスツリーからだということに、近付いて気付く。

幸せそうに歩く恋人たちの間を縫って、岳人の姿を探していると、大きなツリーの真正面でうつむいてじっとしてる赤い髪を見つけた。



「…なまえ…?」
「はぁ…はぁ…」
「なんで?」
「なんで、って…はぁっ…」



息が切れて上手く話せない私を岳人は心配する。

誰よりも私を心配してくれて、誰よりも私を幸せにすると誓ってくれた岳人。


今度は私が、それに答える番だ。



「岳人…」
「なんだよ」
「メリークリスマス」
「は…?」


「つまりは…私が思う最善のことが、岳人と一緒にいることなの」



息を切らせながらそう言って、私は飛びきりの笑顔を彼に向けた。

はたしてこれで伝わっただろうか、そう危惧していると、岳人は少し涙目になって、ゆっくりと私を抱きしめる。



「岳人…?」
「メリークリスマス、なまえ…」



涙声の岳人の腕の中で迎えるクリスマスは、私の世界を穏やかに変えていく。


やっと回想世界に終わりが来たようだ。







Thank You!
And Merry Christmas!



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