夜久月子。七海哉太。東月錫也。
三人とも私の大切な、とても大切な人たち。
――…【だから】なのかもしれない。
starry☆sky
「この間、3組の斉藤さんが東月くんに告白したんだって」
「ホント?! で、どーなったの??」
放課後の教室。まばらに残る生徒の中からそんな会話が聞こえてきたのは本当に偶然だった。
女子の中ではよくある話題。
普段は気にも留めない内容に興味をひかれたのは幼馴染の名を耳にしたから。
「ダメだったに決まってるじゃん」
「だよねー。東月くん、夜久さんのことが好きっぽいし」
「え、…?」
教科書を鞄にいれる手が止まった。
彼女たちはなにを言ってるんだろう――?
「名前ー! 早く帰ろー」
「っ、うん!」
自分を呼ぶ月子の声に名前は逃げるように教室を出た。
「あっ、哉太ー! 錫也ー!」
「んな大声で呼ばなくても聞こえてるってーの」
目尻に涙を浮かべながら欠伸をかく哉太。その後ろを優しい笑みを浮かべた錫也が続く。
例えクラスが違っても、四人はいつも一緒にいた。それが当たり前だった。
「月子、なんだか嬉しそうだな」
「えー? そうかな?? 普通だよ」
最初はほんの小さな亀裂。
「あー、肩こった。今日もやっと一日が終わったぜ」
「よく言うよ。午後はほとんど授業に出なかったじゃないか」
徐々に広がった亀裂はもう元のカタチへは直せないくらいに広がっていた。
「もー! 哉太ってばまた授業サボったの?」
「いーだろ、別に」
「良くないよ。もう三年生なんだよ? 受験はどうするの?」
考えてみればすぐに気づけたことなのに。
「名前??」
「どうした、名前?」
「名前、具合でも悪いのか?」
きっと気づかない“フリ”をしてたんだ。
この“カタチ”が崩れてしまうのが、怖かったんだ。
けれど気づいてしまった。
“ここ”に私の居場所は無いんだと。
いつも一緒にいたはずの私たち。
『そうだよね。そういえば、七海くんも夜久さんのこと好きみたいだよね?』
いつの間にか崩れ始める関係。
『そりゃそーでしょ。だからあの“三人”はいつも一緒にいるんだよ』
私だけが取り残されたような感覚。
「っ!!」
私はなんて最低な人間なんだろう…――!!
「、ごめん! 忘れ物しちゃった。三人とも先に行ってて」
驚いた三人の顔を見ずに駆けだす名前。
背後から聞こえてくる月子の声に足を速め、名前は三人から逃げるように走った。
二人に愛され、守られる月子を見て感じたのは嫉妬。
彼女の傍を絶対に離れようとしない哉太と錫也を見て憎悪が生まれた。
「こんな、…こんなの――ッ!!」
ずっと四人で一緒にいられると思った。一緒にいたいと思った。それが当たり前だと思っていた。
けれど、いつの間にかこのカタチは崩れ始めもう元には戻せなくなっていた。
なんて醜い私の“ココロ”。もう幼馴染とは一緒にいられない。
「っう、ひっく…くッ…、!」
あのころにはもう戻れない。もう、戻れない。